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Vol.19:東京都・杏林大学医学部付属病院 3つの検査体制をワンフロア化、迅速な検査報告を実現 人的配置を最適化し、患者サービスに重点を置いた検査室へ

  東日本大震災から3年が経過した。海岸に近い医療機関は、廃業や再建途上も多い。宮城県の災害拠点病院石巻赤十字病院(452床)は、震災以降、患者集中に伴う検体検査増により報告時間が遅延。これに対応するため生化学検査の処理能力を1.5倍に増強し、病棟、外来検査ともに40分以内に報告ができるようになった。震災から現在、さらに今後の展望について聞いた。

  2011年3月11日午後2時46分、大きな揺れに続き、間もなくして検査室は停電。自家発電に切り替わり、停電はすぐに回復したが、度重なる余震のため、検体検査はすぐに再開できず、ある程度落ち着いた2時間後に緊急検査項目に絞ってようやく検査態勢を立て直した。メンバーはワンセグなどを通じて外部の状況を把握し、未曽有の大震災であることを認識していたという。
  自家発電設備に接続していたAU2700の稼働に問題はなかったが、自家発電設備に接続していないAU680は分析途中に停止したため、全てのセルを外し、手で直接洗浄・乾燥を行い、装置を正常復帰させた。

阿部氏

  震災当時の状況について検査部課長の阿部香代子氏によると、検体検査部門は生化学、免疫血清、血液学、輸血の数名を残し、それ以外は患者誘導にあたった。
  また、生理検査部門は、トリアージの黄色エリアで心電図検査・超音波検査、黒エリアでの業務を行うとともに、震災数日後には呼吸器外科医師の指示のもと、下肢血管エコーチームを編成した。さらに、発災2週間後には提供されたポータブル検査器を使用して深部静脈血栓症(DVT)検診を行うため、避難所に出向いた。現在は活動の場を仮設住宅に移し、多職種の協力を得ながら定期的に行われている。


止めない検体検査で診療側を支援

  検体検査部門について検査部係長の小堺利恵氏らは、検体検査を止めない態勢で診療側を懸命に支援した。生化学検査は、AU680とAU2700の両方が使える態勢で臨んだ。しかしながら、自家発電に切り替わる際、空調機器は除外されたため、室温が40度近くに上昇。換気をしようにも、外は重油や海産物が腐敗した臭いがひどく、検査室の扉は開けられない状態だったという。免疫血清などの自動分析装置は、高温に伴うエラーが頻発、シリンジ交換をせざるを得なくなった機器もあった。無停電電源装置がつながれた機器も、バッテリーの劣化により機能しないものもあった。小堺氏は、「設置するだけでなく緊急時に稼働するか日常のメンテナンスが重要」と実体験からその重要性を指摘した。
  震災直後は、緊急検査としてスクリーニングのセット検査を行ったほか、低体温症の患者が多いことからCPKの異常も多く、トロポニン、CPK-MBといった心筋マーカーの測定も増えた。さらに凝固検査も多く測定したという。


震災後、生化学検査は倍増

  震災以降、3年間で患者数は1.2倍に増えた。
  近隣の石巻市立病院が被災し現在も再建中で、市内の診療所では小児科の廃業や患者の受診を抑制していることが影響しているという。三陸道の整備により隣接の市町村から救急搬送されることも要因の一つである。
  このため生化学検査は07年に1日当たり平均300件程度だったが、13年には500〜600件程度と倍増した。特に、石巻市立病院の消化器内科の閉鎖に関連して肝炎関連項目が急増、免疫血清検査は外注項目の一部を院内で実施するようになった。検査部の検査技師も震災前に比べると10人増員し、37人となった。


分析装置を更新 結果報告は40分以内に

小堺氏

  生化学検査の検体増は、結果報告の遅延につながった。病棟検査はピーク時には平均88分、外来検査も午前9時から10時の混雑時には平均54分も要しており、測定時間の長い免疫血清検査よりも生化学検査が遅れることも度々であった。臨床側からは、「生化学検査が免疫血清検査よりも遅れるのはなぜだ」といった不満も出ていた。
  このような状況から、13年5月にAU680をAU5800に更新、生化学検査全体の処理能力は、毎時2400テストから3600テストに1.5倍増となった。これにより病棟・外来検査はともに40分以内に報告できるようになり、検査結果を催促する問い合わせもなくなったという。今後も検体数は増加が予想され、処理能力の高い機種の導入は不可欠であった。
  AU5800の導入理由として小堺氏は、「毎時2000テストと処理能力が高く、AU2700より試薬が大幅に微量化されているうえ、操作性も継承されている」ことを挙げた。また、ベックマン・コールターの保守サービス対応も評価。日頃の対応の中で、検査現場とサービス担当者のコミュニケーションが十分にとれていたことにより、震災時に異常停止したAU680の復旧をスムーズにさせたという。

震災を経験して見えた4つの課題

  今回の震災を契機に小堺氏は、次の4つを課題に挙げた。@ネットワークの構築A適正在庫の見直しB今後の検査機器の選定C臨床検査技師の存在―である。
  @については、これまで院内外問わず、検査室があまりにも閉ざされた空間であったことに気付かされたという。災害時に検査技師として活躍するためには、メーカーや販売店のみならず、各技師会との交流、近隣病院とのつながり、院内他部門との連携を日頃からしっかりと築き上げていくことが重要だとした。
  Aについて今回の震災では、津波の影響により道路事情が悪化。さらに原発の影響で首都圏とのアクセスが遮断されたため試薬在庫の管理・見直しを検討せざるを得なくなったという。万一に備えて、試薬の在庫を無駄に廃棄することのない、適正な量で管理する重要性を再認識したという。
  Bについて、災害拠点病院として水や電気の使用量、無停電電源装置の準備など、災害発生時に効果を発揮しうる機種選定とそれを最大限生かすための体制構築を十分に考慮すべきだとした。
  Cの臨床検査技師の存在について、検査技師だからこそできる業務の内容と優先度について再考させられ、あらためて検査技師の存在価値についてさまざまな観点から考える機会が増えたという。

臨床検査技師の存在価値

生化学検査担当の皆さん

  こういった未曽有の災害の中で、POCのような即時検査は有用であるが、反省として小堺氏は、POC(装置)の提供を受けたものの、一部の避難所や仮設の医療施設で有効に活用できなかったことを挙げた。迅速かつ正確に検査結果を出せるのが検査技師であり、仮設の医療機関など、各施設において検査技師以外が測定する場面も多く、その効果を最大限発揮させられなかったのではないかと振り返る。機器の取り扱い説明など、正確なデータを出すためのサポートがもっとできたのではないかと指摘した。
  同病院では現在、病棟で使用される血糖測定装置などのPOC、さらにICUや手術室で使われる血液ガス分析装置の精度管理を検査技師が担当、医師や看護師などと顔の見える関係づくりに努めている。先に示した院内でのネットワーク構築はもちろん、院内で検査に関する情報をしっかりと伝達、共有することが目的だ。

JCIの認定取得目指して

  石巻赤十字病院は、今後3年間で医療の質と患者安全の改善を目的とした世界基準JCI(Joint Commission International)の認証取得を目指すという。JCIの評価は14分野1220項目に及ぶ。また、検査部のさらなる課題として阿部氏は、試薬や薬物の適正な管理のほか、機器管理の徹底、院内感染対策への取り組みなどを挙げている。
  阿部氏と小堺氏は、「この経験を風化させず後世に伝え続けたい」と、さまざまな場でこれまでも懸命に同病院での経験を発表してきた。石巻赤十字病院は、これまでの経験を糧に、また一歩前へ歩みだそうとしている。

(The Medical & Test Journal 2014年3月11日 第1264号掲載)

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