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Vol.27:日本臨床検査自動化学会第46回大会・ランチョンセミナー 不妊治療領域、新たな注目は「卵巣予備能」 「アクセス AMH」、診療への貢献に期待

 女性の晩婚・晩産化を背景に不妊治療のニーズが広がっている。山王病院リプロダクション・婦人科内視鏡治療センターの藤原敏博センター長は10月10日、日本臨床検査自動化学会第46回大会のランチョンセミナー(後援:ベックマン・コールター社)で講演し、不妊治療においてホルモン検査の重要性を指摘するとともに、「近年、卵巣予備能検査としてAMH(アンチミューラリアンホルモン)が注目されている。感度が上昇し測定時間も短縮された新たな試薬が上市され、臨床として非常に期待している」と述べた。

藤原氏 妊娠の成立には卵子・精子が正常な受精能力を有し、排卵と受精、着床の過程がスムーズに進行することが必要だ。
女性は生まれてくるときに卵巣の中に数百万個の原始卵胞を持っており、この原始卵胞にさまざまな因子が関わりながら1次卵胞、2次卵胞、3次卵胞(胞状細胞)、グラーフ卵胞(成熟卵胞) へと発育していく。
まず、卵子由来のbFGFと顆粒膜細胞由来のkitligandが作用して、原始卵胞が1次卵胞に成長する。その後BMP-15やGDF-9が働くが、BMP-15によってアクチビンBが誘導され、このアクチビンBは顆粒膜細胞の増殖やFSH受容体を誘導する。1次卵胞から2次卵胞、3次卵胞へと発育していく中でBMP-6、BMP-7が作用し、FSH受容体が誘導されていく。
藤原氏は「さまざまな局所因子が時期に応じて複雑に絡み合って、1つの卵胞を成長させていく」と述べ、卵胞の成長過程においてさまざまな因子が複雑に作用していると説明する。


月経に多くのホルモンが関与

 月経周期の過程で、卵巣・子宮内膜・基礎体温の変化にはホルモンが関与している(図1)。
卵巣では卵胞の発育・成熟、排卵、黄体の形成・萎縮が起こる。深く関わるのが脳下垂体から分泌される「FSH(卵胞刺激ホルモン)」と「LH(黄体化ホルモン)」だ。月経開始直後には通常複数個の胞状卵胞が両側卵巣に存在するが、FSHがこれらを刺激して成熟卵胞まで発育を促す。既に述べたようなさまざまな因子の作用により、最終的にはFSH受容体の豊富な単一の卵胞が選択されて主席卵胞となり排卵に至り、他の卵胞は閉鎖卵胞となる。
成熟卵胞の成長にしたがってエストラジオール(卵胞ホルモン;E2)も増加していき、その血中濃度がピークに達した後に、LH が急峻な増加(LHサージ)を起こし、排卵が誘発される。
子宮内膜では、卵胞の発育に伴って分泌されるエストラジオールの増加により増殖が促進される。一方、排卵後に形成される黄体からプロゲステロン(黄体ホルモン;P4)が産生・分泌され、子宮内膜が着床しやすいように性質が変化する。また、プロゲステロンは体温中枢に作用し、基礎体温が上昇する。着床すれば基礎体温は高温相で保たれ、着床しなければ下がっていき子宮内膜は剥がれて月経が起こる。


多岐にわたる不妊の原因

座長の米澤広美氏(横浜市立大学付属総合医療センター) 生殖年齢にある男女が妊娠を希望し、一定期間性生活を行ったにもかかわらず妊娠しない場合、不妊症と判断される。結婚後1年以内に80%、2年以内に90%のカップルで妊娠が成立することから、日本産科婦人科学会や国際産科婦人科連合では2年間を目安に不妊症を判断する。女性の年齢が上がることで妊娠率が下がることもあり、最近は晩婚・晩産化を背景に不妊治療を行うカップルが増加しているとされている。
不妊症の原因は排卵因子、卵管因子、子宮因子、頸管因子、男性因子、その他の原因など多岐にわたっており、頻度としては、女性側の因子として排卵障害に関するものが10〜20%、卵管障害が30%、子宮の問題が5〜10%であり、男性側に原因があるものが40〜50%、原因不明が10〜20%ある(複数の不妊因子を有する場合を含む)。

 藤原氏は「意外に多いのが男性因子であり、そのため当院では必ず男性も検査を受けてもらう」とし、不妊症の原因を判断するためには女性だけではなく男性の検査も必要だとしている。
また複数の因子で不妊症になっている場合もあり、網羅的に検査を実施して原因を探った上で、複数の問題があった場合は重症度、優先度などを考慮して治療方針を決定していくことになる(図2)。

欠かせないホルモン検査

 不妊治療では各種のホルモン検査、負荷試験が欠かせない。排卵に関する検査では基礎体温に加えて、ホルモン検査としてFSH、LH、PRL、E2、AMHを月経3日目前後に測定し、黄体機能検査として高温相7日目前後にE2とP4を測定する。また、経腟超音波検査による卵胞発育・排卵のチェックを適時実施している。
不妊症の診断では原因を網羅的に探索するため、基礎体温、ホルモン検査、黄体機能検査に加えてクラミジアや子宮卵管造影検査、頸管粘液検査、子宮や卵巣の形態検査(経腟超音波検査、MRI検査など)、精液検査なども併せて行っている。
検査結果から不妊の原因を明らかにし、原因に応じた治療を選択していく。藤原氏は治療を進めていくためにも、検査を通して患者の状態を適切に把握することが重要との認識を示した。

モニタリングには検査値が不可欠

 不妊治療の最も高度なものが体外受精(IVF-ET:in Vitro Fertilization & Embryo Transfer)だ。1954年にウサギ、69年にマウスで体外受精がそれぞれ成功し、ヒトでは78 年に英国で世界初の体外受精による子どもが生まれている。
最近では、体外受精に付随する技術を総称して、生殖補助医療(ART: AssistedReproductive Technology)と呼んでいる。
ARTでは卵巣を刺激して卵胞の発育を促し、発育状態をモニタリングして採卵のタイミングを計る。経腟超音波下で採卵した卵子と精子を受精させ、培養してから女性の子宮に受精卵を戻すが、一度、胚凍結し別の周期に子宮に戻す場合もある。
体外受精に向けて採卵前の排卵を抑制し、確実に採卵するために行われるのが調節卵巣刺激だ。月経周期に合わせて採卵する自然周期法、排卵誘発剤のクロミフェンを服用する低刺激法、ゴナドトロピンの注射薬を使用する(この際排卵抑制の目的でGnRHアゴニストあるいはアンタゴニスト製剤が適宜併用される)従来型卵巣刺激法などの方法があり、患者のニーズに合わせて選択する。
採卵時期の決定には血中ホルモン値が重要になる。月経開始3日目(卵巣刺激開始直前)や排卵誘発剤の投与後数日のタイミングでE2、LH、P4を測定する。E2は卵胞の発育程度や数を見る項目だ。また、LHは排卵直前に一過性に増加するため採卵前に排卵が起きていないことを確かめるために測定を行う。P4も同様に早発黄体化が起きていないかを確認する目的で測定する。また、経腟超音波検査を行い卵胞の個数や平均径を確認する。
藤原氏は卵巣刺激中のモニタリングについて、「測定値を見て採卵時期を決定する。排卵誘発剤の投与量や投与期間の決定を行うのにも重要な要素になる」と説明。「検査結果が短時間で正確にフィードバックされることが必要不可欠。これを見ないと前に進めない」とも述べた。

注目される卵巣予備能「AMH」

 政府の少子化社会対策白書(2014年版)によると、第1子出産時の母親の平均年齢は11年に30歳を超え、12年は30.3歳になった。
藤原氏は、「不妊症で悩んでいる人は年齢が高くても妊娠に挑戦するが、35歳を超えると妊娠率が下がってしまうし、流卵子のダメージが原因とされていることから現在の医学では改善は難しいとの見方を示した。また、年齢を重ねることで卵子の数も減っ産の可能性も高まる。40代半ばでは妊娠しても50%が流産してしまう」と説明(図3)。妊娠率の低下や流産率の上昇は卵子のダメージが原因とされていることから現在の医学では改善は難しいとの見方を示した。また、年齢を重ねることで卵子の数も減っていく。

 このため、不妊症治療の現場で注目されているのが、卵巣予備能を見る「AMH」(アンチミューラリアンホルモン) という。
AMHは成人女性で未熟卵胞から産生分泌され、年齢とともに減少していくことから、卵巣にどの程度の卵胞が残っているかを知るマーカーとして活用されている(図4)。藤原氏は「ホルモン剤の影響を受けにくく、月経周期中の変動が少なく安定していることから使いやすいマーカー」とした一方、同年代でも測定値の幅が広いため単純な検査数値の高低では判断が難しく、加えて従来試薬では測定に時間を要することが課題だとした。

「アクセスAMH」への期待

 AMHは不妊治療領域の卵巣予備能だけではなく、卵巣腫瘍に対する手術、化学療法や放射線療法によって卵胞へのダメージが想定される場合にその程度を知ることも可能で、今後さらに活用される領域が広がることが予想される。
ベックマン・コールター社は今年10月、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA法)によるAMH測定試薬「アクセスAMH」(研究用試薬)を発売した。従来のELISA法との相関は良好で、低濃度域の感度と再現性が向上し、測定時間は3時間から40分に短縮された。自動測定が可能になったことで効率的な運用も可能だ。キャリブレータもウシ由来からヒト由来になり、長期間正確な測定結果が得られる。CVも4%以下と良好だ。
藤原氏は「自動測定でき、測定時間もかなり短縮された。従来試薬AMH Gen Uとの相関もよく従来値との比較もできる。CVも小さくなってブレも少なくなった。現場の人間として非常に期待している」とし、不妊症治療への貢献に期待感を示した。

(THE MEDICAL & TEST JOURNAL 2014 年12 月21 日第1294 号掲載)

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