2016年12月21日掲載

長崎大学病院検査部

Vol.37「WASP」導入で分離培養精度高める

より信頼性の高い検査結果を報告

Vol.37:長崎大学病院検査部 「WASP」導入で分離培養精度高める より信頼性の高い検査結果を報告

 長崎大学病院(862床)は、2016年6月に中央診療棟が完成し、検査部は新棟に移転した。微生物検査室は自動塗布装置を更新、ベックマン・コールター社より微生物検体処理システム「WASP」を導入した。従来品に比べ塗布精度が向上するとともに、検体が確実に採れたかを内蔵のカメラで確認できることから、信頼性の高い検査が実施されている。また、検体塗布の自動化など業務の効率化に伴い、遺伝子検査など新しい検査の導入が可能になった。

栁原教授(左)と松田副技師長 長崎大学病院は1861年に開院し、150年以上の歴史を持つ国内で最も古い医療機関。特に熱帯医学研究所に代表されるように、感染症診断・治療において、日本国内でも有数の実績を誇る。全国から医師や医学生が集まり、診療、教育、研究が行われている。
 検査部の特色について長崎大学医学部臨床検査医学教授、長崎大学病院検査部の栁原克紀部長は、「正しい検査データを、より迅速に診療側に報告するとともに、より高度な検査にも対応している」と説明する。大学病院として日常検査のほか、学生や研修医、入職して間もない技師の教育も実施しているという。
 感染症に対する研究者が多いことから、検査のニーズもさまざま。検査においても高い品質が求められている。栁原部長によると、例えば「薬剤耐性菌の併用効果を見てほしい」「一般的にはMIC測定を行わないような抗菌薬のMICを見てほしい」、菌の同定に関しても「この症例は特殊だから、菌の同定をしてほしい」、「この病態は重症なため病原性の解析を行ってほしい」など、他の施設では行われていない細かな検査ニーズにも対応しているという。
 また、長崎大学病院は2011年12月、国際医療センターを開設し、第1種感染症病床を2床併設した。感染のリスクが高く、万一感染した場合、命に関わるリスクが高い第1類感染症(エボラ出血熱など) を安全に診療する。栁原部長は、「今後も、より高度な検査の対応が求められる」と予測。検査部の水準を可能な限り引き上げ、「微生物検査のレベルは日本一」との目標に向かう。抗菌薬の治験など臨床研究も積極的に行っており、2017年初頭までにはISO15189の認定が取得できる見込みだ。

自動化で質の底上げが可能

 微生物検査の自動化、迅速化が進んでいる。検査部副技師長の松田淳一氏は、「一般細菌や真菌の同定は、質量分析装置を用いて報告している」と述べる。同定までの時間が早く、誰でも精度の高い検査が得られる。また、結核菌は、遺伝子検査で同定し検査結果を迅速に報告しているという。
 松田氏は、微生物検査について、「今まで経験によって、精度を上げてきた。しかし、今は、自動化された機器を用いて精度を上げることができる。これをどのように使いこなしていくかが課題」と述べ、業務の効率化による新しい検査導入の必要性を挙げた。
 検査部の検査技師数は50人。うち微生物担当は8人。微生物検査室は、365日体制で、常に迅速に検査結果を報告している。診療側からは、「毎日、微生物検査が行われていることが評価されている」(松田氏) と述べ、365日体制に加え、質量分析装置や遺伝子検査機器の導入により、より迅速に臨床側に報告しているという。

WASPにより分離培養の精度が向上

WASPの前で 松田氏は、遺伝子検査など新しい検査を導入する場合、人員増は難しいと指摘する。そのために「日常業務の効率化が必要」と述べる。すでに約8年前に細菌検査の自動塗布装置を導入したが、更新の時期となったことから、中央診療棟への移転に伴いWASPを導入した。
 WASPについて松田氏は、「処理能力は、従来機器とほとんど変わらないが、検査精度が向上した」と述べる。検体は、WASP内蔵のボルテックスミキサーによって塗る前に攪拌されるので、均質な菌液を採取できる。さらに採取状況はカメラで確認する。採れていない場合、採取は最大3回まで繰り返すので、確実に採取できる。今まで採れなかったことはないという。撹拌や確実に採取していることが精度の向上、さらに安心感につながっているという。
 検体の塗布について松田氏は、「単に塗るだけであれば、2週間程度で習得できる」という。しかし、均一に塗れるまでにはもっと時間がかかり、個人差も出やすいという。WASPのような全自動機器の使用により、塗布精度の底上げが図れ、精度の向上にもつながっている」と指摘した。
 微生物検査室の培養依頼検体数は1日当たり100件程度。うち50件くらいについて、それぞれ3枚ずつ程度培地に塗っている。WASPには、9種類の培地がセットでき、検体の種類により、自動的に培地が選択される。9種類の培地で、ほぼルーチン検査をカバーできるという。
 WASPでは、喀痰や尿、膿、便などの検体を処理。血液は手塗りで行っている。上位システムとオンライン接続されているため、検体を載せてスタートを押すだけで、検体の種類に応じた培地に塗ることができる。従来、ラベルを培地に貼り付ける作業が手間であったが、WASPにより改善された。

e スワブ導入による効率向上を目指す

 長崎大学病院ではWASPを単体で使用しているが、ベックマン・コールターでは、ワークセル方式の細菌検査システムとして、検体のセットから結果報告まで一連の業務を自動化する「WASPLab」を提案している。さらに「e スワブ」というフロックスワブと液相輸送培地のセットを販売している。
 フロックスワブは、先端にナイロンファイバーをブラシ状に付けた構造で、検体の約90%をリリースできる。輸送培地にスワブを挿入し、スワブの柄を折ることでそのままリキャップが可能。室温でも安定的に保存できる。松田氏は、「近い将来、e スワブを導入したい」との意向を示し、導入により、業務の更なる効率化を図る考え。採用に当たっては、採取容器や扱い方が変わるため、病棟や外来の看護師に対して連絡を徹底させなければならないとした。

「業務拡大のための自動化」

 栁原部長は、「自動化機器の導入は、人員の削減のために行うのではなく、新しい業務の拡大のために行うべき」と述べる。機器の導入によりどのような価値が出るのかを追究すべきであるとした。
 また、検体塗布の自動化について松田氏は、「手で行うと相当なマンパワーが必要。長崎大学病院規模の微生物検査室では、細菌の塗布業務に2人の技師が必要になる」とした。しかし、自動塗布装置の導入により1人で運用できる。その分、遺伝子検査など新しい検査業務の対応が可能になることを示した。さらに「機器に任せられる部分は機器に任せて、その分、人ならではの高度な判断が求められる検査や後輩技師の育成に費やすべき」とした。

AMR 対策に検査部も関与を

 厚生労働省は2016年4月、薬剤耐性(AMR)アクションプランを作成、薬剤耐性対策に本格的に乗り出した。日本は、抗菌薬の使用量はそれほど多くはないが、広域スペクトルの抗菌薬の使用比率が高い。厚労省は、細菌検査結果を迅速に報告することで、広域抗菌薬の使用を抑制したい考え。
 栁原部長は、「AMR対策には、微生物検査室の役割が大きい。薬剤感受性を踏まえて広域抗菌薬から適切な抗菌薬に切り替えることは、患者の負担軽減となるだけでなく、医療費の抑制にもつながる」と述べ、微生物検査室はより早く検査結果を診療側に提供し、患者の診断に反映させることが重要と指摘した。

(THE MEDICAL & TEST JOURNAL 2016 年12月21日 第1372 号掲載)

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