2011年11月11日掲載

福岡県・福岡大医学部

Vol.9世界中で使用される日本発のCEA抗体

福岡大医学部部長・黒木政秀氏 インタビュー

福岡県・福岡大医学部 世界中で使用される日本発のCEA抗体

消化器をはじめとする悪性腫瘍の診断補助マーカーとして知られるがん胎児性抗原(CEA)─。
日常的に行われる検査だが、測定試薬に用いる抗体の開発者が日本人であることをご存じだろうか。
Quality Leaders Digestは今回、福岡大医学部長で生化学教室主任教授の黒木政秀氏を訪ね、CEA抗体の開発経緯や測定法の特長、さらにはCEAのがん治療への応用も含めて話を伺った。

 

── 単クローン性抗CEA抗体の特許が5回登録されていますね。研究を始めた経緯を教えてください。

黒木氏

黒木氏  30年ほど前のことでしょうか。がんマーカーになり得る分子が発見されると、必ずと言っていいほどファミリー分子といって性質が似たものが見つかります。 CEAの場合も正常組織で発現する分子が数多くあり、それらが混在して血中を流れています。 正常細胞に発現するものを除外した系を作ろうと研究に着手しました。当時はポリクローナル抗体だったため調製の苦労もありました。 その後、CEAに特異性が高いモノクローナル抗体が開発されたことで研究は順調に進み、1982年6月に単クローン性抗CEA抗体の特許を出願しました(97年3月に登録)。 最終的に146種類の抗体を作りましたが、当時は将来性を見越して医療や臨床検査への参入を検討する企業が多く、抗体の提供はベックマン・コールターも含めて1つの測定原理については1社に限定して行うことで進めてきました。 CEAの発見者であるカナダのフィル・ゴールド氏ともその頃知り合い、今でも年に一度は会う間柄です。

 

── あらためてCEAの測定系の特性を解説していただけますか。

図1

図2 黒木氏  CEA測定試薬に用いられるモノクローナル抗体の特性は、CEAに対する特異性の高さにあります。 CEAの支配遺伝子であるCEACAM5は、29個の支配遺伝子からなるCEAファミリーに属しています。 測定上問題となる主なCEAファミリー分子のドメイン構造を示したのが(図1)ですが、同じファミリーでもCEAは分子量が最も大きいものです。 産生細胞/組織間で構造を比較すると、左端のNからA2までは共通する分子がありますが、CEAには右端にB3という特徴的なドメインがあります。 測定法としては、固相一次抗体と、B3に対応する二次抗体で抗原を挟んで捕捉するワンステップサンドイッチ法などがあり、二次抗体はB3だけを捕捉するため、 肺、好中球に発現するNCAなど、ほかのファミリー分子と反応せずCEAだけを特異的に測定できるのです(図2)。

 

── 免疫・血清検査の軸は、遺伝子に移っていくのでしょうか。

黒木氏  血液の中で遺伝子の断片でさえも検出できるようになるなど、確かに専門知識と技術は進歩しています。 ただ、遺伝子自体の利用範囲には限界があり、遺伝子産物である蛋白質としての腫瘍マーカーの利用価値は、それほど低下しないのではないかと見ています。 ただ、どの腫瘍マーカーでもそうですが、数値が上昇したからといって、がんであるとは断定できません。 確定診断はCTやPETなどと組み合わせて行う必要があり、診断の補助と考えるべきです。 CEAは治療後の経過観察にも有用であり、簡便さとコスト的な側面も含めた利用価値は、これからも変わらないでしょう。

 

── 現在の研究テーマは何ですか。

黒木氏  がんの遺伝子治療にCEAを応用する研究を進めています。 ウイルスが細胞に入り込む働きを利用して作製するベクターによって、がん細胞を傷害する遺伝子を直接導入する治療法ですが、がん細胞だけに効率良く導入する技術の確立が課題になっています。 そこで着目したのががんと特異的に反応する抗CEA抗体で、ベクターの表面にこの抗体をレーダーとして装着させ、がん細胞だけを攻撃する治療薬の開発を目指しています。 しかも、診断薬に使った抗体がマウス由来であるのに対して、治療に使うのはヒト型の抗CEA抗体です。 現状を登山に例えれば七合目といったところでしょうか。ハードルは低くはないけれど、開発までこぎ着けたいですね。

(The Medical & Test Journal 2011年11月11日 第1176号掲載)

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