9.普通染色(メイギムザ染色)

【目的】
細胞形態を血液学的に同定する基本的な手段として普通染色がある.
染色にはその昔 Ehrich (1877)が染料から三価酸染色を発見して以来、Romanowsky(1891)がマラリア原虫に活路を見出し、Pappenheim(1908)がMay-Grunwald Giemsa(MG)染色を確立した経緯がある.
時代は流れ、今日普通染色として単染色と二重染色があるが、診断には後者が優れている.二重染色にはWright-Giemsa(WG)染色とMG染色があるが、経験的ならびにFABグループはMG染色を推奨している.
染色法の異なる標本での議論は無意味であり早急に統一するべきである.ここでは30年間愛用しているメイグリュンワルドギムザ(メイギムザ:MG)染色を紹介する.


【原理】
普通染色は緩衝液(pH6.3~7.3)のもと、青色の陽イオン色素(塩基性色素)アズールBと赤橙色の陰イオン色素(酸性色素)エオジンYの混在している状態で、単に青色や赤橙色のみでなく多種の色調が得られるというRomanowsky効果を基調とした染色法である.

メイギムザ染色のコツ

瞬時乾燥の塗抹標本*1
メイグリュンワルド原液*2  3分
1/15M-リン酸緩衝液(pH6.4)*3  3分
ギムザ希釈液*4  20分
水洗(溜り水で)*5
風乾燥
色調を確認後 封入*6
(*1~6は注意事項5に示す)

メイギムザ染色のコツ

【注意事項】

  1. 染色液は市販のものを用いる. 染色壷かバットにて染色する.
  2. メイグリュンワルド液、ギムザ液とも高温を避けて室温で保存しても構わない.
  3. メイグリュンワルド液はメタノールを含み固定の作用もあり、保存の際は
    水分が入らないように密栓しておく.
  4. 室温の管理は重要であり1年中適温を維持し染色の良き環境を作る.
  5. 染色の手順に基づく染色のコツを下記に示す.
    • *1 白血球増多や骨髄の標本では乾燥をすばやくしないと塗抹が剥がれることがある.
    • *2 メイグリュンワルド原液は1週間継ぎ足しで行なう(次の週は新調).
    • *3 市販の緩衝液10mlを1Lに溶かしさらに10倍に希釈する.
    • *4 上記緩衝液50mlに対しギムザ原液2~3mlをギムザ希釈液とする.
      件数にもよるがその日はギムザ原液を継ぎ足しで行い次の日は新調する.
    • *5 水道水の溜り水にて3回程上下する(洗い過ぎないこと).
    • *6 仕上がりは乾燥後裏面を綿球で拭い色調を観察する.
      薄い場合は過染色しながら染色性を整える.
      半永久保存であるが封入する場合はやや濃い目の方が退色を和らげる.

染色のビットフォール ~その1~


ギムザ(G)染色.骨髄×1000
ギムザ(G)染色.骨髄×1000

メイギムザ(MG)染色.骨髄×1000 (当院)
メイギムザ(MG)染色.骨髄×1000(当院)

[同一症例]
某院のギムザ染色にて細胞の形態が掴めず、別標本を当院でMG染色を行なったところクロマチン網工、核小体、細胞質の形態をしっかり捉えることができた.本例はG染色の弊害の1つであり、腫瘍細胞の詳細な同定には不向きと思われる.常日頃から二重染色を行なう習慣をつけることが必要と思われた.
(AML-M1の症例)


染色のビットフォール ~その2~


MG染色.骨髄×1000
MG染色.骨髄×1000

MG染色.骨髄×1000 (当院)
MG染色.骨髄×1000(当院)

[同一症例]
某院にてMG染色が行なわれ当院に診断の相談を受けたものである.全般に染色性の薄さとアズール顆粒の出方がはっきり掴めなかったので別標本を当院で染色し直したところ核染と顆粒の形態を掴むことができ、TypeⅡ芽球と前骨髄球の鑑別が可能になり分化傾向を示唆することができた.某院でのギムザ染色の時間不足が考えられ、少し長めに染色をし直す工夫が必要と思われた.(AML-M2の症例)


染色のビットフォール ~その3~

MG染色.末梢血×1000
MG染色.末梢血×1000

MG染色.末梢血×1000 (当院)
MG染色.末梢血×1000 (当院)

[同一症例] (3日後に染色し直した事例)
某院にてMG染色が行なわれ単球性白血病を疑い診断の相談を受けたもので、全般に核は淡く顆粒の出方も弱いため単球を思わせた.別標本を当院で染色し直したところ核染は濃くなり、顆粒をしっかり掴むことができ、なかにはアウエル小体を認めた. DIC所見もあり、病的な前骨髄球と同定した.ギムザ染色の時間不足が考えられ、少し長めに染色し直す工夫が必要であると思われた.(AML-M3の症例)


標本を分割する巧みな技

標本を分割する巧みな技

標本枚数が限られた時に有効であり、工業用ダイヤモンドペンで定規を用いて横に分割する. 必要に応じて増枚し染色後にラベルにて1枚ずつまとめる.

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