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導入事例の紹介Quality Leaders Digest

Vol.15:大阪大学医学部附属病院 質の高い内分泌・腫瘍マーカー検査体制を構築

  大阪大学医学部附属病院臨床検査部 内分泌・腫瘍マーカー検査室は、この5月に以前から使用していたベックマン・コールターのユニセル DxI 800を更新し、迅速報告と業務効率化のために同機の機能を最大限活用した独自の検査運用を開始した。効率化により創出した時間は、検査データから患者の状態をより深く読み解くために他の検査データや電子カルテの閲覧に充て、患者サービスの向上に努めている。さらに、CEA・PSAをはじめ、LH・FSHなど内分泌・腫瘍マーカー11項目について国際プロジェクトにより設定された共有基準範囲を導入した。

  大阪大学医学部附属病院は検査、放射線、リハビリ、臨床工学の計4部門でスタッフ約200人の医療技術部を組織し、各部門の特性を活かした診療支援と患者サービスの向上を目的に掲げている。
竹丘氏  検査部門で内分泌・腫瘍マーカー検査を担当する主任の竹岡啓子氏は、臨床検査技師として、何よりも正確な検査結果を迅速に診療部門や患者に報告することを心掛けていると説明する。外来迅速検体検査加算の導入だけでなく、各診療科からの要望に応えるため、スピードは以前に増して重視されるようになった。同検査室としてはおおむね1時間以内の報告を目標としている。
  正確性、迅速性が求められる背景には高度先進医療を提供する特定機能病院ということがある。副主任の畑伸顕氏は、九州や韓国からも患者が訪れることから、「できるだけ早くデータを出してその日に診察を受けて帰っていただくことは患者さまにとってメリットが大きい」とし、患者サービスの面でも検査の迅速性は不可欠との考えを示す。
  同検査室は今年5月に内分泌・腫瘍マーカー検査のうち11項目を「アジア地域基準範囲設定国際プロジェクト」(PJ)により設定された基準範囲に切り替えた(日本臨床検査自動化学会会誌 Vol.37Suppl.1, 36〜54,2012)。個人情報保護に対する規制が一層厳しくなった影響もあり、竹岡氏は、エビデンスに基づく基準範囲を各施設単独で設定するのはほぼ不可能であることに言及。山口大学大学院医学系研究科保健学系学域・病態検査学の市原清志教授らが設定した共有基準範囲は、母集団が約3500人と多いことに加え、「年齢層や性別に応じて明確に設定されており、より正確な情報だと考えている」と評価する。同PJでは、ほとんどの項目がベックマン・コールターの自動分析装置・試薬で測定されており、同じ装置・試薬を採用している同検査室においては共有基準範囲の導入はスムーズだった。
  共有基準範囲の意義について竹岡氏は、腫瘍マーカーなどカットオフ値が重要となる項目よりも、時系列でデータのモニタリングを必要とする項目に有用であり、初期診療を担う医療機関での活用の意義がより高まるとみる。標準化が困難とされる非標準化対応項目について、同PJはクロスチェックにより検査値の装置・試薬間差を解消する道筋を提示しており、「ハーモナイゼーションを通じて多施設の異なる検査値が置き換えられる意義は大きい」としている。

分析装置の特長を活かした検査運用を構築

  同病院の1日の外来患者は平均2500人前後。結果報告までの時間は短縮したものの、それに呼応するかのように検査依頼件数は増加傾向にあり、業務効率化のゴールはいまだ見えない。内分泌・腫瘍マーカー検査は用手法も含めて40数項目を院内採用しており、1日の検体処理数が600件を超える日も珍しくないという。腫瘍摘出手術などでは術前、術後の依頼が急増するなど、患者にとっては“最後の砦”となる大学病院ならではの事情もある。
畑氏  内分泌・腫瘍マーカー検査の専任技師は3人、兼任技師1人のため、ローテーション制度を積極的に活用する。専門分野だけでなく、生化学などの基本となる検査にも習熟してバックアップができる検査技師を育成するのが目的だ。竹岡氏は、「いかなる事態が発生しても、診察前検査や通常検査に対し迅速に対応することを前提に、今後若い人達は生化学を中心に、薬物検査や緊急検査も含めたさまざまな分析装置の扱いに習熟する必要がある」と話す。
  同検査室は、最大400テスト/時の処理能力を持つユニセル DxI 800をはじめ、甲状腺、腫瘍マーカーそれぞれに対応する分析装置を搬送ラインで連結するシステムを構築。ユニセル DxI 800はシステムのいわば“上流”に配置されているが、理由について畑氏は、「検体をホールドする時間が短い」と説明。装置内部に検体を取り込んで測定するため、検体離れが良く、検体が搬送ライン上で渋滞することなく後工程に控える検査をスピーディーに行える利点を指摘する。
ユニセル DxI 800はシステムの“上流”に配置した
ユニセル DxI 800はシステムの“上流”に配置した
  竹岡氏も、「免疫反応には各項目により適正な反応時間がある」と強調し、測定時間についても、どの項目も同じ反応時間で実施するのではなく、「項目ごとにより適切な反応時間を採用し、それを1台の装置でこなせる意義は大きい」と話す。さらに機構面では50テスト×50パック(2500テスト分)の試薬を収納できるほか、試薬・ベッセル(反応管)はセットするだけで補充、廃棄も自動で行い、基質液・洗浄液はリザーバ機能を活用した“速さを止めない配慮”がなされ、迅速性と省力化の確保に貢献している。

迅速に、しっかりと“見て”報告

  内分泌・腫瘍マーカー検査に携わる検査技師に求められるスキルについて竹岡氏と畑氏は、患者の背景を踏まえて検査結果を返すという意味で、“データを見る”ことの重要性を強調する。とりわけ腫瘍マーカー検査は患者の診断に与える影響が大きく、主治医からの照会内容はより専門的になる。畑氏は「基準値よりも数値が高いから再検という機械的なものではなく、『このケースでこのデータだから必要』というように、治療経過を考慮に入れた報告が求められている」と説明する。そのためにも、スピーディーな検体ハンドリングを実現する、効率的で自動化された分析システムを構築し、大量な検体であったとしても少ない手間で迅速に処理する必要があると強調する。
  依頼された検査の結果を迅速に、かつデータをしっかりと“見て”報告する体制構築に向けた取り組みは、途切れることなくこれからも続く。今後について畑氏は、甲状腺分化癌の手術評価や術後再発、転移の有無を確認するのに有用なサイログロブリン(Tg)について、より高感度を確保したベックマン・コールターの測定試薬に期待を寄せる。また、CLEIA法によるエリスロポエチン測定試薬にも興味を示した。
  竹岡氏は、初期のラジオイムノアッセイで4日ほどかかった甲状腺刺激ホルモンの測定が、自動分析装置により20分程度まで短縮した現状を「長年イムノアッセイに関わってきた人間からすれば夢物語のよう」と表現。メーカーから提供される製品・サービスの特長を活かして、さらなる検査品質の向上に取り組む。

(The Medical & Test Journal 2012年11月11日 第1214号掲載)

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