第72回 「マンスリー形態マガジン」 2017年4月号

『 古代日本の海外初防衛策、それは鞠智(きくち)城 』

前 略

 ときは7世紀後半(約1,300年前)、645年中大兄皇子(なかのおおえのおうじ:後の天智天皇)・中臣(藤原)鎌足らが蘇我氏を打倒し古代政治史上の一大改革「大化の改新」がなされた頃、東アジアの政治的情勢は緊張していた。中国では663年朝鮮半島の「白村江(はくすきのえ)の戦い」で百済・高句麗と唐・新羅の連合軍が戦闘開始、百済と友好国であった日本は百済に援軍を送ったが連合軍に敗北した。事態は急変し、直接日本が戦いの舞台となる危険性が生じ、歴史上初の外敵からの脅威に大和政権が古代日本の防衛策として、北九州から瀬戸内海そして大和に至る要所に城を築いた。九州には大宰府(福岡県)を守るために筑紫に大野城・水城城(福岡県)、基肄城(佐賀県)、金田城(長崎県)、鞠智城(熊本県)が築城された。鞠智城はこれらの城に食糧や武器、兵士などを補給する支援基地であり、最も重要視されていた城の1つであった。
   鞠智城(熊本県山鹿市菊鹿町)は山城であり、滅亡した百済の亡命貴族の手助けもあり築城された。その後、貯水池跡から出没した銅像の菩薩立像や持仏などは百済貴族の遺品と言われ、百済との文化交流がうかがえる。これらに関する記録は日本書記に記載されているそうです。
   鞠智城はその後復元されていますが、広大な山地に建てられた山城は、360°大パノラマであちらこちらに土塁の防衛ラインが眼に引きます。なかでも圧巻なのが高さ15.8mの八角形鼓楼で、国内の古代山城では例をみないものとされ、4棟の八角形建物跡がみつかっています。八角形の特殊な形は、太鼓の音で時を知らせたり、見張りに役立つものであったと言われます。周囲には板倉、米倉、兵舎、研修施設なども設備されています。
   学生の頃、大化の改新の年号(645年)を “ムシゴメ 食う改新日”と覚えたことがありましたが、時はすでに中国と交流があったことに改めて勉強させられました。昨年の10月、熊本城の復興を願って熊本を訪れたとき、たまたま足を延ばした菊鹿町は「大化の改新」にタイムスリップしていたかのようでした。

(資料:熊本県立装飾古墳館分館、歴史読本.2015)

草々

形態マガジン号キャプテン 阿南 建一 



著作権について

今回のねらい

 今回は、骨髄像の細胞同定と症例の光顕的診断に挑みます。
細胞同定は、類似細胞の鑑別ポイントを明確にして同定を行ってください。今回は核のクロマチン構造の所見の捉え方に挑戦してみました。
   症例編は、末梢血、骨髄の形態所見に注意しながら行ってください。
   特殊染色は二法を提示していますが、その特性と反応態度を考えて光顕的診断を試みてください。今回も選択肢がありませんので、限られた情報を駆使しながら絞り込んでみてください。

問題

第72回 骨髄像の細胞同定を行なって下さい。

1-1<設問1>

  • BM-MG×1000

  • BM-MG×1000

  • BM-MG×1000

  • BM-MG×1000

  • BM-MG×1000

  • BM-MG×1000

  • BM-MG×1000

  • BM-MG×1000

検査データと末梢血、骨髄像より考えられる疾患は何ですか。

2-1<設問1>

【所見】
【30-35歳.女性】
主訴:全身倦怠感
WBC73,400/μL、RBC218万/μL、Hb7.6g/dL、Ht22.0%、PLT2.5万/μL、NCC46.5万/μL

  • PB-MG×400

  • BM-MG×1000

  • BM-PO×1000

  • BM-Est×1000

解答・解説

一口情報

 今回は、普通染色(MG染色)におけるクロマチンと核小体について迫ってみました。
1)クロマチン構造
   核は、核膜を境目とする空間のなかに糸状の核色質(クロマチン)がもつれ合って網目状の構造を作っています。そしてクロマチンはMG染色で紫褐色に染着されてみえます。
クロマチンが核内でもつれ合って染色された様姿をクロマチン網工(核網工)といい、それは大きく、網目状を呈するもの(網状)や顆粒状を呈するものに分けられます。網状配列を呈するものには、①網目の緻密なもの、②粗荒なもの、クロマチンの太いもの、繊細なものがあり、顆粒状配列を呈するものには、①繊細なもの、②緻密なものがあります。それらの所見を巧みにあやつり細胞特有の核質構造を捉えることになります。通常、成熟の血液細胞は多かれ少なかれ粗大な外見を呈し、繊細な網目状ないし顆粒状のクロマチン網工は未熟や幼若細胞に見られやすい。また、クロマチンは量的に評価する場合もあり、核全体が濃い目に染着される場合はその増量として、薄い場合は狭量(?)として捉えるようにしています。

2)核小体
   核のなかにクロマチンとは区別されて、米粒のような格好をした小さな構造物が核小体です。
MG染色で、青色ないし紫青色に染着され、数は1~2個から3~4個など様々です。あまり染着されない状態でも、その周囲にクロマチンが粘着して核小体の輪郭を示している場合もあります。
通常、核小体は成熟の血液細胞で観察されることは少なく、未熟な細胞ほど多くみられます。
核小体はリボソームを生成する場であり、生成されたリボソームは細胞質におけるタンパク合成の場となり、核小体の大きな細胞ほどタンパク合成が旺盛といえます。また、細胞の増殖には細胞構成タンパク質の合成亢進が必要であるため、核小体が細胞の増殖に深く関わっているのも事実です。
従って、核小体は幼若細胞にみられる小器官というだけではなく、増殖相にある細胞にもみられる小器官ともいえます。例えば、バーキット白血病/リンパ腫では比較的大きな核小体を有する細胞の増殖が特徴ですが、それは増殖が盛んであることを意味し、それに符合するかのように細胞分裂像、高尿酸血症がみられるのも納得ゆく所見です。

小宮正文:図説血球のみかた.3-4,南江堂
阿南建一ほか:白血球形態.605-612,Medical Technology.vol.19,No.7.医歯薬出版.1991

問題 1

(正解と解説)
   骨髄にみられた類似細胞または鑑別細胞を提示しました。細胞同定に核質構造を読み取ることは重要であり、なかでもクロマチン網工や核小体の判定は形態診断に影響を与えます。それらの捉え方を「一口情報」にまとめてみましたので参考にしてください。

【正答】

(case A) 前骨髄球(好中性)、 (case B) 前骨髄球(好塩基性)、 (case C) 前骨髄球(好中性)
(case D) 病的な前骨髄球(好中性)、 (case E) 前単球、  (case F) 単芽球、 (case G) 前単球、 (case H) 前赤芽球

【解説】

(BM-MG ×1000)
A B
C D
E F
G H
(case A)
細胞径20μm大、核は偏在傾向で核形不整は軽度、核小体は不明瞭でクロマチン網工は粗網状、細胞質の塩基性は弱く赤褐色の粗大な一次(アズール)顆粒がみられることより好中性の前骨髄球に同定しました。




(case B)
細胞径20μm大、核は偏在傾向で核形不整は軽度、核小体はみられるようで(青矢印)クロマチン網工は粗荒、細胞質の好塩基性は弱く、A.よりもさらに大きな黒紫色の顆粒(1~2μm)が核の上にもみられます。核の分葉傾向はみられず幼若型として捉え、好塩基性の前骨髄球に同定しました。



(case C)
細胞径20μm大、核は偏在傾向で核形不整は軽度、核小体は明瞭のようで(青矢印)クロマチン網工は粗顆粒状、細胞質の好塩基性は強く顆粒は少ない。核の陥没部分にはゴルジ野がうかがえ好中性の前骨髄球に同定しました。





(case D)
細胞径17μm大、亜鈴状の核形不整で核小体がみられ(青矢印)クロマチン網工は繊細、細胞質は好塩基性で微細顆粒を有する芽球を思わせます。周囲には複数のアウエル小体を有するものもみられ、またPO染色に強陽性を呈したことより病的な前骨髄球に同定しました。



(case E)
細胞径25μm大、核に偏在傾向はなく核形不整が顕著(リアス式海岸様)で核小体は複数認め(青矢印)クロマチン網工は繊細、細胞質の好塩基性は強くやや太めのアズール顆粒がみられます。核縁の歪な不整や複数の核小体より前単球に同定しました。本顆粒は通常より大型であることから二次的変化によるものが考えられます。


(case F)
細胞径25μm大、核は僅かに偏在傾向で円形核、核小体は明瞭(青矢印)でクロマチン網工は粗顆粒状、細胞質の好塩基性は強く顆粒は認めません。大型でN/C比が低く、明瞭な核小体や顆粒を認めないことより単芽球に同定しました。




(case G)
細胞径23μm大、核はやや偏在傾向で核形不整が顕著、核小体は明瞭で(青矢印)クロマチン網工は繊細網状、細胞質の好塩基性は強く顆粒は充満し、二重構造(赤矢印)がみられることより前単球に同定しました。




(case H)
細胞径28μm大、核は円形でほぼ中心性、核小体がみられ(青矢印)クロマチン網工は粗顆粒状、細胞質の好塩基性は強度で、核縁の4時方向にはゴルジ野がうかがえ、大型であることより前赤芽球に同定しました。ただ、核小体についてはくっきり見えないことが多いようです。



問題 2

   30-35歳、女性の例。全身倦怠感にて来院され、血液検査で白血病が疑われ入院となりました。
入院時、発熱、歯肉出血があり、肝脾腫やリンパ節腫大は認めませんでした。

【解説】

(PB-MG ×1000)

(BM-MG ×400)

(BM-MG ×1000)

(BM-P0 ×1000)

【末梢血液像所見】(A図)
   白血球数増加(73,400/μL)の末梢血液像で芽球は10%、単球が60%と増加していました。

【骨髄像所見】(B図)
   過形成の骨髄(46.5万/μL)で芽球は20%前後、以下単球系の成熟過程(前単球から単球)が70%と増加していました。

【特殊染色】(C図、D図)
   PO染色(C)は陽性の顆粒球系2個に対し、単球系は一部が陽性(矢印)ですが大半が陰性でした。
EST染色(D)は非特異的ESTの1つであるアセテート染色を提示しました。増加する単球系はびまん性陽性がみられ、それらはNaFに阻害されました。

【染色体所見】
   46,XX 

【表面形質】
   CD4・CD11b・CD11c・CD14・CD64(+)、HLA-DR(+)

【臨床診断】
   末梢血は芽球と単球の増加がみられたことより急性単球性白血病を疑いました。
骨髄は過形成のなか単球系が主体で、それらには分化過程がうかがえ、単芽球が20%前後、以下前単球から単球系が70%で分化型の急性単球性白血病を考えました。光顕的診断の確定にはPO染色とEST染色になりますが、PO染色では単球系は大半が陰性で、アセテートEST染色で単球系はびまん性の陽性を呈し分化型急性単球性白血病と診断しました。通常EST染色はブチレートを基質に用いた方法は顆粒状に染まりますが、アセテートを基質に用いた場合はこのようにびまん性に染まりますので、弱陽性の場合は特に判定に留意します。
経験的にブチレートより感度は高いようです。但し、EST二重染色にはクロロアセテートとの相性がよいブチレートが使用されます。臨床的にも歯肉出血は皮膚浸潤とともに急性単球性白血病でよくみられる症状のようです。



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