第2章 4つの視点による造血の理解
以下にそれぞれの視点について述べる。
「点」は、細胞や類似細胞の同定や異型性の評価など、個々の細胞を観察する視点である。
「線」は、細胞成熟の連続性や分化系列のつながり、造血動態に加え、形態が形成されるまでの連続した過程(成熟・分化・病態形成)を読み解く概念である。したがって、「線」は成熟系列だけでなく、病態形成や治療反応など、形態変化に至るプロセス全体を評価する概念でもある。
「面」は、細胞の出現比率や骨髄全体像、腫瘍性・反応性パターンなどから、空間的構造と病態全体を把握する視点である。
一方、「時間」は、治療前後の変化、回復期、再発・進行、長期経過観察などを通して、病勢や病態の推移を評価する視点である。
1. 正常造血を読む
本項では、「線」の視点のうち、正常造血における分化・成熟の連続性に着目する。「線」は、各血球系統が規則的かつ連続的に成熟しているかを評価する視点であり、個々の細胞形態を観察する「点」の視点に対して、細胞間の連続性や成熟系列、分化・成熟の過程を統合的に理解する診断思考である(図2)。
| 4つの視点 | 評価 |
|---|---|
| 点(個々の細胞観察) | 各系列に明らかな異型細胞や芽球の増加を認めない。 |
| 線(分化・成熟の連続性) | 幼若型から成熟型までの分化連続性が保たれている。 |
| 面(全体の分布・造血バランス) | 各造血系列の分布は概ね均衡し、著明な偏りを認めない。 |
| 時間(動態・変化・病勢推移) | 進行性・クローン性変化を示唆する所見はない。 |
| 診断思考 | 正常造血では、各血球系統の分化・成熟は連続した「線」として保たれている。 この正常な「線」を理解することが、異常造血や血液疾患を読み解く出発点となる。 |
赤芽球系は、前赤芽球、好塩基性赤芽球、多染性赤芽球、正染性赤芽球、網赤血球を経て赤血球へと成熟する連続的系列をたどる。成熟過程においては、核の縮小およびクロマチンの細顆粒状から粗大凝集へ、さらに濃染(ピクノーシス)へと変化し、これに並行してヘモグロビン合成の進行に伴う細胞質の好酸性化が生じる。核成熟と細胞質成熟は密接に同調して進行する点に本系統の特徴があり、この同期性が保たれているかを評価することが重要である。
巨赤芽球性造血では、前巨赤芽球から好塩基性巨赤芽球、多染性巨赤芽球、正染性巨赤芽球を経て巨赤血球へと至る成熟系列を形成する。本病態の本質は、核成熟の遅延に対して細胞質成熟が先行する成熟乖離にある。特に多染性の段階において核・細胞質の同期不全が明瞭となる。これにより、成熟系列は連続性を保ちながらも機能的整合性を失うという特徴的な破綻像を呈する。この成熟乖離は、巨赤芽球性造血を形態学的に特徴づける最も重要な所見である。
巨核球系は、巨核芽球、前巨核球、成熟巨核球を経て、血小板産生巨核球へと分化する特殊な成熟系列を形成する。巨核球は細胞質分裂を伴わず核内分裂のみが進行するため、核内倍加(endomitosis)によりDNA含量が増加し、4C~64C(多くは16C~32C)の多倍数体へ成熟する。なお、従来は4N~64Nと表記されることもあるが、近年はDNA含量を表すC表記が一般的である。巨核球は通常、骨髄の静脈洞で血小板を放出し、一部が末梢循環へ移行しても大型細胞であるため肺毛細血管で捕捉される。このため末梢血に巨核球を認めることはまれである。血小板放出後に残る裸核は骨髄内マクロファージにより速やかに貪食される。一方、新生児や骨髄増殖性腫瘍(CML、原発性骨髄線維症など)では、骨髄構造の変化や巨核球の増殖に伴い、裸核あるいはまれに巨核球が末梢血に出現することがある。
正常造血では、各血球系統が一定の規則性に従って連続的に成熟する。この「線」が保たれているか、あるいは途中で停滞・逸脱・断裂しているかを評価することが、形態診断の基本となる診断思考である。
CML : chronic myeloid leukemia
2. 異常造血を読む
「線」の概念を踏まえ、さらに「点」「面」「時間」の視点を加えて、慢性骨髄性白血病(CML)の慢性期、骨髄異形成腫瘍(MDS)、急性骨髄性白血病(AML)、再生不良性貧血(AA)を例に、異常造血をどのように理解するかを解説する。
1)CMLは、顆粒球系細胞が幼若型から成熟型まで連続して増加しており、成熟系列のつながりが保たれている。これはCMLの原因であるBCR::ABL1融合遺伝子が産生するチロシンキナーゼの恒常的活性化によって細胞増殖が著しく亢進する一方、分化・成熟機構そのものは比較的維持されている。結果として、成熟の流れ「線」は保たれたまま、その細胞産生量「面」のみが著しく増加した状態として理解し、時間の経過とともに、やがて「線」の破綻へ移行する病態である。
【略語】
MDS:myelodysplastic neoplasm、AML : acute myeloid leukemia、AA:aplastic anemia
2) MDSは、正常な成熟過程が障害される。その背景にはRNAスプライシング異常(SF3B1,U2AF1など)やエピゲノム異常(TET2,ASXL1など)が存在する。これらの異常によって成熟に必要な遺伝子発現プログラムが乱れ、細胞は適切な成熟を遂げることができなくなる。これらの異常によってその結果、核成熟異常、顆粒の形成異常、核の分葉異常などの異形成が出現し、さらに、多くの細胞は骨髄内でアポトーシスに陥リ、無効造血を呈する。すなわちMDSでは、成熟の流れ「線」そのものが乱れ、途中で途切れた線として理解し、「時間」とともに無効造血へ進行する病態である(図3)。
| 4つの視点 | CML-慢性期 | MDS |
|---|---|---|
| 点 | 各成熟段階の細胞形態はほぼ正常。 異形成は乏しい。 |
各系列に異形成(核形不整、低顆粒化、多核化など)を認める。 |
| 線 | 顆粒球系の分化・成熟が連続して保たれる。骨髄芽球から分葉核好中球まで一本の「成熟の線」でつながる。 | 分化・成熟の連続性が乱れ、成熟系列が途切れる。無効造血を示す。 |
| 面 | 骨髄全体で顆粒球系が著明に増加し、全成熟段階の細胞が広く分布する。好塩基球・好酸球が増加しやすい。 | 異形成細胞が複数系列に広がるが、正常造血は減少する。 |
| 時間 | 慢性的に増殖が持続し、治療しなければ加速期・急性転化へ進行する。 | 造血しているのに血球が増えない経時的な異常として無効造血を来す。慢性的に進行し、一部はAMLへ移行する。 |
| 診断思考 | 「線」は保たれたまま、「面」が拡大し、「時間」とともに成熟の連続性(線)が破綻へ向かう病態。 | 「線」の破綻を主体とし、「面」に異形成が広がり、「時間」とともに無効造血や白血病化へ進む病態。 |
3) AMLは、芽球が増加する一方、その先の成熟段階への移行が著しく障害される。成熟系列の連続性が失われ、その流れは途中で停止する。すなわちAMLにおける「線」は“破綻した線”あるいは“停止した線”と表現できる。さらに、t(8;21)AMLでは、成熟障害は存在するものの、一部に好中球系への分化・成熟傾向を残すため、完全に破綻した線ではなく、途中まで連続性を保った線として捉えることができる。
4)AAでは、造血幹細胞レベルでの障害により、顆粒球系・赤芽球系・巨核球系の全ての系列で細胞供給が低下する。各系列の成熟系列「線」は保たれているものの、その流量「面」は著しく減少し、線そのものが細くなった状態、すなわち量の異常であり、質の異常ではない。
【小括】
3. 診断思考の入り口 -末梢血に異常細胞を認めたら-
末梢血に異常細胞(芽球、異常リンパ球、癌細胞など)を認めたとき、最初に考えるべきことは、その細胞が骨髄内で増殖した結果、末梢血へ流出したものなのか、それとも骨髄外で増殖した細胞が末梢血へ流入したものなのかを見極めることである。その判断のためには、Hb減少、血小板減少、好中球減少の有無を確認し、これら三系統の血球が障害されている理由を考えることが重要である。
三系統すべてに減少(汎血球減少)を認める場合には、異常細胞が骨髄内で増殖し、正常造血を置換・抑制している可能性が高い。一方、明らかな血球減少を伴わない場合には、骨髄外で増殖した細胞が末梢血へ流入している可能性を考える。白血球数は芽球や異常リンパ球の増加によって見かけ上高値となることがあるため、正常造血の障害を評価するときは白血球数ではなく好中球数を確認する。急性白血病では、芽球が骨髄内でクローン性に増殖し、正常造血が障害されるため、Hb減少、血小板減少、好中球減少を伴うことが多い。
このように、汎血球減少の有無を確認する目的は、異常細胞の主な増殖・浸潤部位が骨髄内か骨髄外かを推定することにある。汎血球減少を認める場合に推定される病態とその意義を、図(図4)に示す。一方、固形癌の骨髄転移では、末梢血に白赤芽球症や血球減少を認めることが少なくない。
| 病態主体 | 意義 |
|---|---|
| 急性白血病 | 芽球の骨髄内増殖による正常造血抑制 |
| 悪性リンパ腫の骨髄浸潤/白血化 | リンパ腫細胞の骨髄浸潤による造血領域の置換 |
| 固形癌の骨髄転移 | 癌細胞の骨髄転移による骨髄占拠、造血不全 |
| MDS、骨髄線維症など | 異形成・線維化・無効造血による正常造血障害 |
| 診断思考 | 汎血球減少では、「骨髄で血球が作れない病態」か、「末梢で血球が失われる病態」かを考える。さらに、異常細胞や形態異常を手掛かりに骨髄不全、骨髄浸潤、無効造血、末梢破壊へと診断を絞り込む。 |
続いて、汎血球減少を認めない場合に推定される病態とその概念を図(図5)に示す。もっとも、汎血球減少を認めないことだけで急性白血病を否定することはできない。白血球増加型の急性白血病では、Hb減少や血小板数の低下が軽度にとどまることがあり、また、悪性リンパ腫でも骨髄浸潤が高度であれば汎血球減少を呈することがある。したがって、この段階で行うのは診断を確定することではなく、病態を推定するための最初の診断思考である。
| 細胞主体 | 意義 |
|---|---|
| A. 悪性リンパ腫の白血化 | 主病変はリンパ節・脾臓・髄外臓器にあり、腫瘍細胞が末梢血へ流入する。 |
| B. CLL/リンパ腫の白血化 | 骨髄浸潤が軽度であれば正常造血が保たれ、汎血球減少を伴わないことが多い。 |
| C. 反応性リンパ球(異型リンパ球) | EBウイルス感染、サイトメガロウイルス感染、薬剤、その他の感染症などに対する免疫応答を反映する。 |
| 診断思考 | 異常細胞が出現していても汎血球減少を伴わない場合は、正常造血は比較的保たれていると考える。従って、骨髄外病変からの細胞流入、骨髄浸潤が軽度な病態、あるいは反応性変化をまず考える。末梢血形態に加え、リンパ節腫大・脾腫の有無、感染症や薬剤歴などの臨床情報を合わせて評価することが重要である。 |
「線」(細胞所見とCBCを因果関係で結ぶ):芽球や異常細胞の出現と、Hb・血小板・好中球の減少を一本の線として結び付け、正常造血が障害されているかを考える。
「面」(病変の場を推定する):標本全体、CBC全体、臨床情報を統合し、病変の主な場が骨髄内か骨髄外かを推定する。
末梢血に芽球や異常細胞を認めた場合の診断フローチャートを(図6)に示す。この段階では、芽球・異常細胞がどこで増殖しているのかという視点から、病変が骨髄内か骨髄外かを推定する。「時間」(病態の進展を読む):病態が時間とともにどのように変化し、その変化が末梢血液像へどのように反映されるかを読む。

急性白血病、悪性リンパ腫の白血化、固形癌の骨髄転移などが、病勢の進展や治療経過に伴ってどのように末梢血液像へ反映されるかを、時間軸に沿って理解する(図7)。
| 疾患 | 病勢の進行 |
|---|---|
| 急性白血病 | 骨髄内で芽球の増殖 ⇒ 正常造血の圧排・抑制 ⇒ 貧血・血小板減少・好中球減少の出現 ⇒ 芽球が末梢血へ流出 ⇒ 末梢血で芽球を認める。 |
| 悪性リンパ腫の白血化 | リンパ節・脾臓・節外臓器で腫瘍細胞の増殖 ⇒ 腫瘍細胞の末梢血流入 ⇒ 末梢血にリンパ腫様細胞の出現 ⇒ 骨髄浸潤が軽度であれば血球減少は目立たない ⇒ 骨髄浸潤が進行すると血球減少・好中球減少が出現する。 |
| 固形癌の骨髄転移 | 固形癌の骨髄転移 ⇒ 腫瘍細胞が造血巣を置換する ⇒ 貧血・血小板減少・好中球減少の出現 ⇒ 白赤芽球像、涙滴赤血球、幼若顆粒球、有核赤血球などを認める。 |
| 診断思考 | 異常細胞を見るだけではなく、「いつ血球減少が起こったのか」を時間軸で考えることで、病勢の進行方向と病変の主座が見えてくる。 |
末梢血に異常細胞を認めたら、まず「どこで増殖した細胞なのか」を考える。次に、血球減少の有無から正常造血障害の程度を評価し、さらに血球減少が異常細胞の出現に先行したのか、あるいは後から出現したのかを時間軸で考える。このように点・線・面・時間の四つの視点を組み合わせることで、骨髄原発疾患、骨髄浸潤性疾患、骨髄外病変由来の疾患を効率よく層別化できる。
