第3章 4つの視点による鑑別診断

本章では、第2章で学んだ「点・線・面・時間」の視点を、細胞から症例、白血病全体、さらに末梢血と骨髄へと診断のスケールを段階的に広げながら、実際の診断思考へ応用する。

1. 類似細胞の鑑別

類似細胞の鑑別は、血液形態診断における基本かつ重要な課題である。しかし、実際の診断では、細胞の形態的特徴だけを比較しても判別が困難なことが少なくない。本書で提唱する4つの視点から考えると、類似細胞の鑑別は単なる形態比較ではなく、個々の細胞の特徴を捉える「点」、成熟系列上の位置づけを考える「線」、その細胞が出現する骨髄・末梢血の背景を評価する「面」、さらに病期や経過との関連を考慮する「時間」を統合して判断する過程といえる。

すなわち、「この細胞は何か」を考えるだけでなく、「どの成熟段階に位置するのか」「なぜここに出現しているのか」「いつ出現する細胞なのか」を総合的に捉えることで、より確実な鑑別診断につながる。以下に代表的な類似細胞を取り上げ、4つの視点に沿って鑑別のポイントを解説する。理解しやすいように、各項目は共通のフォーマットで構成し、診断思考を加えた。

なお、実際の細胞像をイメージしやすくするため、写真1に関連する類似細胞を提示した。写真左下の数値は、赤血球(約7~8μm)を基準とした細胞のおおよその直径を示している。細胞の大きさは、核や細胞質などの形態所見と 併せて評価することで、類似細胞の鑑別精度を高めることができる。

1)骨髄芽球 vs前骨髄球

(a)4つの視点:「線」(最重要)の視点では、骨髄芽球から前骨髄球への成熟過程に沿って、クロマチンの凝集、核小体の不明瞭化、一次顆粒の形成という連続した変化を捉える。鑑別に迷う場合は、まず核の成熟度を評価し、次いで顆粒形成の程度を確認することで、成熟系列のどの段階に位置するかを判断する。さらに「点」の視点から、個々の細胞の核および細胞質の形態を詳細に評価する(図8-1,2)。

図8-1. 骨髄芽球 vs 前骨髄球
大きさ
(直径)
N/C比 核位置 核形 クロマチン 核小体 細胞質色調 顆粒
骨髄芽球 約10-20μm 高い
(80%)
ほぼ中央 円形 繊細網状 明瞭 淡青色 なし
(原則)
前骨髄球 20-25μm 低い 偏在 類円形 やや粗剛 あり 濃青色 粗大一次
(アズール)


図8-2. 骨髄芽球 vs 前骨髄球
視点 骨髄芽球 前骨髄球
点 未熟な核形態を主体に観察する。 細胞質成熟と豊富なアズール顆粒に着目する。
線 顆粒球系成熟系列の起点となる。 骨髄芽球から成熟が進んだ次の段階に位置する。
面 正常では少数にとどまる。 成熟系列の一部として一定数認められる。
時間 正常では前骨髄球へ成熟する。 さらに骨髄球へ成熟し、治療後や造血回復期には一過性に増加することがある。
診断思考 骨髄芽球と前骨髄球の鑑別では、「点」で両者の成熟度を比較し、「線」で成熟系列のどこに位置するかを判断する。「 面」で骨髄全体の分布、「時間」で経過を加味することで、正常成熟と異常増殖を区別する。

(b)形態・鑑別ポイント:骨髄芽球は顆粒球系で最も未熟な細胞であり、前骨髄球はそこから一段階成熟した細胞である。両者の鑑別では、N/C比、クロマチン、核小体、顆粒形成が重要なポイントとなる。骨髄芽球では、N/C比は高く、クロマチンは繊細な網状構造を示し、明瞭な核小体を有する。細胞質は淡青色で軽度の好塩基性を呈するが、顆粒はみられないか認めても極めて少ない。
一方、前骨髄球では、N/C比は低く、クロマチンはやや粗剛となり、核小体は残存するものの不明瞭となる。細胞質は青色で好塩基性を示し、豊富な一次顆粒(アズール顆粒)が出現する。クロマチン構造に着目すると、骨髄芽球はユークロマチンが豊富であるため繊細な網状構造を呈する。一方、前骨髄球ではヘテロクロマチンが増加することでクロマチンはやや粗剛となり、その後、骨髄球以降ではさらに進行し、成熟好中球では結節状となる。この変化はユークロマチンからヘテロクロマチンへの移行を反映している。
N/C比を実践的に評価する方法として、「merge(核が細胞質内縁に接する割合)」という視点を提案する。N/C比は厳密に「測る」のではなく形態学的に「読む」指標であり、mergeはその判断を視覚的かつ瞬時に行うための実践的な指標となる。すなわち、核が細胞内縁の約2/3以上に接している細胞では、高N/C比を示す可能性が高い。このような“mergeは嘘をつかない”という視点は、N/C比の判定を標準化し、顕微鏡診断の再現性向上に役立つと考えられる。

写真1-1. 骨髄芽球(左) vs 前骨髄球(右)
写真1-1
線:成熟連続性から位置づける。
[形態](左)高 N/C比、クロマチン繊細網状、
明瞭な核小体 (右)核偏在(ゴルジ体)、クロマチン粗剛化、粗大な一次顆粒。

(c)診断の鍵:まず「線」の視点から成熟系列のどの段階に位置する細胞かを判断する。続いて「点」の視点で、核成熟度と顆粒形成を評価する。

(d)診断思考:「核成熟と顆粒形成がどのように連動して進むか」を読む。

2)単芽球 vs 前単球 vs 単球

(a)4つの視点:単芽球、前単球、単球は、単球系細胞の成熟過程を反映する連続した細胞であり、単 独の形態所見だけでは鑑別が困難なことは少なくない。したがって、まず成熟系列のどの段階に位置するかという「線」(最重要)の視 点で捉え、その上で個々の形態所見を「点」の視点から評価し、成熟度を確認することが鑑別の鍵となる(図9-1,2)。

図9-1. 単芽球 vs 前単球 vs 単球
大きさ
(直径)
N/C比 核の位置 クロマチン 核小体 細胞質 顆粒 空胞 突起
単芽 球 約13-22μm 低い ほぼ中央 lacy 明瞭 濃青色 なし~少数 少ない あり
前単球 低い ほぼ中央 fine 存在 淡青色 微細 出現 なし
単球 低い ほぼ中央 more condensed 消失 灰青色 微細 多い なし
クロマチン:WHO分類(2008)参考


図9-2. 単芽球 vs 前単球 vs 単球
視点 単芽球 vs 前単球 vs 単球
点 核形、クロマチン、核小体、細胞質の色調や顆粒・空胞などを評価し、成熟段階を確認する。
線 単球系細胞は成熟に伴い連続的に形態が変化するため、まず成熟系列上のどの段階に位置するかを判断する。
面 単球系細胞全体の出現割合や成熟分布を観察し、単球系増殖や成熟異常の有無を評価する。
時間 治療経過や疾患の進展に伴う成熟段階の変化を把握し、反応性変化と腫瘍性変化の鑑別に役立てる。
診断思考 単球系は成熟に伴う変化が連続的であるため、まず成熟系列上の位置「線」を確認する。
その上で核形・クロマチン・核小体・細胞質所見な どの個々の特徴「点」を評価して鑑別する。

(b)形態・鑑別のポイント(腫瘍性単球系細胞) :単球系細胞は分化に伴う変化が連続的であり、顆粒球系に比べて成熟段階の境界が不明瞭である。そのため、単一の形態所見ではなく、核形、クロマチン、細胞質、顆粒などの変化を総合的に評価することが重要である。正常骨髄では単芽球の出現頻度が極めて低く、その形態を直接比較する機会は少ない。そのため、本項では、WHO分類(2008)に記載された形態基準を参考に、急性単球性白血病(AML-M5)の症例を用いて腫瘍性単球系細胞を念頭に置いて鑑別する。
単芽球:核は円形~類円形で、クロマチンは繊細(lacy)、核小体が明瞭である。細胞質は強い好塩基性を示し、顆粒を認めることがある。
前単球:核は不整形となり、軽度の陥凹や折れ曲がりが出現し、クロマチンは繊細な傾向(fine)を示す。核小体は一部不明瞭となる。細胞質は淡青色~灰青色となり、微細なアズール顆粒や空胞を認めることがある。
単球:核は腎形・馬蹄形あるいは脳回状となり、クロマチンはやや凝集(more condensed)する。細胞質は灰青色を呈し、微細顆粒や空胞を伴う。WHO分類では「異常単球」として提唱している。
経験的には、単球系細胞は症例によって異なるクロマチンパターンを示すことがあり、WHO分類の形態記載をそのまま適用できない場合もみられる。なお、ICSH Monocyte Working Group(2026)では、単球系細胞を「芽球・芽球相当細胞(単芽球・前単球)」「未熟単球」「成熟単球」の3群に整理する新たな形態学的分類を提案している。これは、従来の単芽球、前単球、単球という発達段階を、形態学的特徴と診断上の意義を踏まえて再整理したものである。特に、単芽球と前単球を芽球・芽球相当細胞として同一群に位置づけ、これらに該当しない単球系細胞を「未熟単球」として捉える点が重要である。今後、この分類が国際的な標準としてどのように定着していくのか注目されるが、いずれにしても単球系細胞の鑑別では、個々の細胞形態だけでなく、成熟過程や細胞集団としての特徴を併せて捉えることが重要である。

写真1-2. 単芽球(左)vs 前単球(中)vs (異常)単球(右)
写真1-1
点:個々の細胞の成熟段階と形態異常を読む。線:成熟段階の連続性とその偏りから細胞集団を位置づける。
[形態]単芽球:明瞭な核小体、クロマチンは繊細、細胞質は濃青色で微細顆粒。 前単球:核形不整顕著(核内)、クロマチンは繊細傾向、細胞質は淡青色で微細顆粒・空胞。 (異常)単球:小型、核内不整顕著、クロマチンはやや粗剛、細胞質は灰青色で微細顆粒。(AML-M5の症例)

(c)診断の鍵:まず「線」の視点から成熟系列上の位置を判断し、その後、「点」の視点から核形、クロマチン、細胞質と顆粒の成熟度を総合的に評価する。

(d)診断思考:単球系は境界を探すのではなく、成熟の流れの中で「今どこに位置する細胞か」を考える。

3)前赤芽球 vs 骨髄芽球

(a)4つの視点:「面」は赤芽球島を形成する赤芽球系の配列を観察し、その連続した成熟を評価する。「時間」は治療後や再生期などにおける出現状況の変化を理解する際に有用である。赤芽球系は赤芽球島を単位として成熟するため、その形成状態と成熟の連続性を確認することで、有効造血の有無や赤芽球系異常を推定できる(図10-1,2)。

図10-1. 前赤芽球 vs 骨髄芽球
大きさ
(直径)
N/C比 核の位置 クロマチン 核小体 細胞質 顆粒 突起
前赤芽球 約20-25μm 低い 中央 細顆粒状 不明瞭
(存在)
濃青色 なし 舌状
骨髄芽球 10-20μm 高い ほぼ中央 繊細網状 明瞭 淡青色 なし~少数 まれ


図10-2. 前赤芽球 vs 骨髄芽球
視点 前赤芽球 骨髄芽球
点 細胞質は濃青色で強好塩基性でゴルジ体を有しコブ状突起をもつ。顆粒はない。 高N/C比、クロマチンの繊細網状、核小体は明瞭、細胞質は淡青色、顆粒はほとんどみられない。
線 赤芽球系列の最未熟段階。以後、好塩基性赤芽球へ成熟する。 顆粒球系列の最未熟段階。前骨髄球へ成熟する。
面 赤芽球島を形成し、赤芽球系幼若細胞から成熟赤芽球まで連続した成熟像を伴う。 顆粒球系幼若細胞が連続して増加し、顆粒球系列の成熟像を伴う。
時間 溶血後、造血回復期、巨赤芽球性変化などで増加する。 AMLでは持続的に増加し、治療後には減少する。造血回復期では一過性に出現することがある。
診断思考 芽球様細胞として認識し、顆粒球系か赤芽球系かという成熟系列「線」を推定する。次に核形・クロマチン・核小体・細胞質の特徴「点」から系統を決定する。さらに周囲の細胞構成「面」を確認し、必要に応じて臨床経過や治療経過「時間」を統合して診 断する。

(b)形態・鑑別のポイント:前赤芽球は比較的大型で、N/C比はやや低く、クロマチンは細顆粒状である。細胞質は濃い青色で強い好塩基性を示し、しばしばコブ状の突起を認める。一方、骨髄芽球はやや小型で、N/C比は高い。クロマチンは繊細な網状構造を呈し、核小体は明瞭である。細胞質は淡青色で好塩基性は比較的弱い。前赤芽球と骨髄芽球の鑑別では、単一細胞の形態だけでなく、その細胞がどの成熟系列に属するかを確認することが重要である。
前赤芽球は赤芽球系、骨髄芽球は顆粒球系という成熟系列の中に位置づけることで、より確実な鑑別が可能となる。骨髄芽球には通常一次顆粒は認めないが、腫瘍性を帯びてくると、細胞質に数個ほど細顆粒が出現する芽球をTypeⅡ芽球として、また顆粒をもたない芽球はTypeⅠとして分類される(写真1-3)。

写真1-3. 前赤芽球(左)vs 骨髄芽球(右)
写真1-1
点:核と細胞質から系列を読む。線:成熟系列を意識す る。
[形態](左)低N/C比、大型、細顆粒状クロマチン、やや強好塩基性細胞質 (右)高N/C比、繊細網状クロマチン、明瞭な 核小体、微細顆粒(TypeⅡ芽球)。

(c)診断の鍵:まず「線」の視点から、赤芽球系か顆粒球系かを最初に判断する。次に核形・クロマチン・核小体・細胞質の特徴「点」から系統を決定する。

(d)診断思考:芽球様細胞を見たときは、「芽球らしい」で終わらせず、「どの系列の芽球か」を考える。成熟系列(線)を捉え、核・細胞質所見(点)で確認し、赤芽球島や成熟細胞との連続性(面)で裏づける。そして、「この細胞は何か」ではなく、「どこから来て、どこへ向かう細胞か」を考える。

4)反応性リンパ球 vs 腫瘍性リンパ球

(a)4つの視点:反応性リンパ球(異型リンパ球)と腫瘍性リンパ球(異常リンパ球)は、個々の細胞形態だけでは鑑別が難しいことが少なくない。重要なのは、骨髄や末梢血における細胞集団の分布様式「面」(最重要)と、各リンパ球の形態学的特徴「点」を統合して評価し、反応性増殖か腫瘍性増殖かを判断することである(図11-1,2)。

図11-1. 反応性リンパ球 vs 腫瘍性リンパ球
大きさ
(直径)
N/C比 核の不整 クロマチン 核小体 細胞質 顆粒 分布
反応性
リンパ球
約16μm以上
(原則)
低い 軽度 やや粗剛 なし
(原則)
濃青色 なし 多彩
腫瘍性
リンパ球
約10-20μm 高い 顕著 粗網~粗剛 あり 淡青色
多様
時々 単調


図11-2. 反応性リンパ球 vs 腫瘍性リンパ球
視点 反応性リンパ球 腫瘍性リンパ球
点 大型で、核は軽度の不整がみられ、細胞質は豊富で好塩基性が強い。 大きさは多彩で、顕著な核形不整や明瞭な核小体を有する。
線 異型リンパ球の増加は、ウイルス感染症に多く、なかでも伝染性単核球症にみられる。 異常リンパ球は、広義のリンパ系腫瘍疾患に用いられる用語である。
面 リンパ節では胚中心(B細胞領域)や傍皮質(T細胞領域)の位置にリンパ節の構造を保持したまま増生する。 リンパ節の構造などを完全に破壊し、一面を埋め尽くすように単一の細胞で置換・浸潤し、無秩序に増殖する。
時間 ウイルス感染症やワクチン接種後に急激に増えるが、原因がなくなれば消失する。 基本的には、時間の経過とともに増悪(リンパ節の腫大や白血化)する。
診断思考 単一細胞のみで判断せず、まず背景や分布様式(面)を確認する。
その上で個々のリンパ球形態(点)を評価し、 反応性か腫瘍性かを判断する。

(b)形態・鑑別ポイント:反応性リンパ球は一般に大型化するが、その大きさや形態は多彩である。Downey分類では、単球様、形質細胞様、リンパ芽球様と多様性の混在がみられる。反応性リンパ球は、N/C比が低く、核形不整は軽度でクロマチンはやや粗剛、細胞質は濃青色で強好塩基性が特徴である。
一方、腫瘍性リンパ球は、N/C比が高く、核形不整は顕著で明瞭な核小体を有し、細胞質の好塩基性は多彩である。ただし、腫瘍性リンパ球の形態は疾患によって多様であり、最終診断には免疫表現型や遺伝学的検査との総合評価が必要である。反応性リンパ球では大小不同や形態の多様性(polymorphism)がみられる。一方、腫瘍性リンパ球では同様の形態を示す細胞が増加し、単調性(monomorphism)を呈することが多い(写真1-4)。

写真1-4. 反応性リンパ球(左) vs 腫瘍性リンパ球(右) 
写真1-4
点:細胞異型を読む。 面:集団として分布を考える。
[形態](左)低N/C比、軽度の核形不整、やや粗剛なクロマチン、強好塩基性細胞質(多彩) (右)顕著な核形不整、明瞭な核小体、単調な細胞集団の形成(バーキットリンパ腫例)。

(c)診断の鍵:まず「面」の視点から、背景細胞やリンパ球集団の均一性と分布様式を最初に確認する。次に「点」では核形・クロマチン・核小体・細胞質の異型性と均一性を評価する。

(d)診断思考:リンパ球は「この細胞は異型か」ではなく、「この集団は反応性か腫瘍性か」を考える。集団の多様性(面)を先に読み、個々の細胞(点)で確認する。

5)形質細胞 vs 骨髄腫細胞

(a)4つの視点:骨髄腫細胞を「腫瘍性形質細胞」として捉え、病態の進展過程を「時間」(最重要)で理解することが重要である。形質細胞と骨髄腫細胞は、「点」では、核異型や細胞の大型化、多核化、核小体の明瞭化などの形態学的異常を評価する。しかし、異型性が強いからといって直ちに多発性骨髄腫と判断することはできない。なぜなら、骨髄腫は単一の細胞像だけで診断できる疾患ではなく、形質細胞の量的増加や腫瘍性増殖が時間とともに進行する病態だからである。
そのため診断では、意義 不明の単クローン性免疫グロブリン血症(MGUS)からくすぶり型骨髄腫そして症候性多発性骨髄腫という経時的な連続性を意識する必要 がある。すなわち、この鑑別では個々の細胞の異型性(点)だけではなく、その細胞集団がどのような時間的経過の中に位置しているか「時間」を統合して判断することが診断の鍵となる(図12)。

図12. 形質細胞 vs 骨髄腫細胞
視点 形質細胞 骨髄腫細胞
点 核:核の偏在、クロマチン粗剛(水玉模様)
細胞質:好塩基性、核周明庭、空胞。
核:明瞭な核小体、大型、多核など異型性あり
細胞質:好塩基性、ラッセル小体など。
M蛋白は多クローン性(ポリクローナル)の免疫グロブリン。 単クローン性(モノクローナル)の異常なM蛋白を産生する。
線 秩序だった成熟・分化が保たれている。 構造の破綻。
特定の遺伝子変異や染色体異常(14番染色体長腕のIgH転座など)。
面 正常な形質細胞は骨髄に散在する。 骨髄腫細胞が骨を溶かす因子(破骨細胞活性化因子)を分泌するため、頭蓋骨の打ち抜き像や病的骨折、脊椎圧迫骨折などを多発する。
時間 反応性~MGUS(意義不明の単クローン性高ガンマグロブリン血症)。
前駆症状、感染症などの改善により形質細胞は減少する。
時間経過後、形質細胞の割合やM蛋白の増加→MGUS→くすぶり型→多発性骨髄腫への移行。
自律増殖による骨髄占拠、造血能の低下。
診断思考 異型性のみで判断せず、まず経時的推移(時間)を意識する。その上で形態学的異常(点)と全体像(面)を統合して評価する。

(b)形態・鑑別ポイント:形質細胞は、やや小型(10~15μm)で、核は円形で偏在し、クロマチンは粗剛で核小体は目立たず、好塩基性の細胞質には核周明庭がみられることが多い。一方、骨髄腫細胞は大型化し核のサイズは不揃いで、二核や多核を示し、クロマチン分布は不均一となり、核小体は目立つことが多い。

【補足】

1)多発性骨髄腫は形態異型のみで診断されないために、診断には骨髄中の骨髄腫細胞が10%以上存在し、さらに臓器障害(CRAB)または骨髄腫診断事象(Myeloma-defining events)のいずれかを満たすことが必要である。このことからも、形質細胞の異型性だけではなく、病態の進展を時間軸で捉える視点が重要である。
2)形質細胞のクロマチンは古くから「車軸状」と表現される。これは放射状に配列した粗大なヘテロクロマチンを模式化した表現である。しかし実際の標本では、教科書 の模式図のように整然とした車輪状に見えることは少ない。観察上は、黒色の粗大クロマチン塊が単調に散在する「チーター柄」あるいは「水玉模様」のように捉えると理解しやすい場合がある(写真1-5)。

写真1-5. 形質細胞(左)vs 骨髄腫細胞(右)
写真1-5
点:異型性を読む。 時間:クローン性を考える。
[形態](左)低N/C比、核偏在、クロマチン粗剛(凝集・水玉様)、核周明庭、強好塩基性細胞質、小空胞 (右)核偏在、 クロマチンやや粗剛、明瞭な核小体、強好塩基性細胞質、空胞。

(c)診断の鍵:まず「時間」の視点から、持続性の腫瘍性増加か、一過性の反応性増加かを最初に考える。次に「点」では核異型、核小体、二核・多核化・細胞質の好塩基性、空胞、封入体などの異常を評価する。さらに「面」では散在性の出現か、集簇性・シート状の増殖か、さらに骨髄内での分布様式を確認する。

(d)診断思考: 「異型だから骨髄腫」ではなく、「時間とともに腫瘍性増殖へ進展しているか」を考える。形態異型(点)は病態(時間)を理解するための手掛かりである。

【略語】

MGUS:monoclonal gammopathy of undetermined significance
CRAB:calcium/renal/anemia/bone

6)好塩基球 vs 肥満細胞

(a)4つの視点:好塩基球と肥満細胞は、いずれもメタクロマジー(異染性)を示す粗大な紫黒色顆粒を有するため、形態のみでは混同されやすい。しかし両者は由来・存在部位・病態に大きな違いがある。好塩基球は末梢血を循環する顆粒球であり、肥満細胞は組織常在細胞として機能する。したがって、鑑別は顆粒の色調だけではなく、「どこに存在する細胞なのか」という「面」の視点を最初に考え、そのうえで細胞形態「点」から系統を判断することが評価のポイントとなる(図 13)。

図13. 好塩基球 vs 肥満細胞
視点 好塩基球 肥満細胞
点 約12-16μm、分葉核、粗大顆粒
顆粒の溶出(水溶性)、顆粒は核上に散布
血液中の循環、全身のパトロール。
約25μm以上、核:円形・紡錘形、偏在傾向、
顆粒の密集(非水溶性)。
皮膚や粘膜など外界と接触する組織の結合組織に常在し、侵入者を待ち構えている。
線 骨髄で成熟後、血中に放出され、血管内で成熟完了。 未熟な状態で血中を移動し、末梢組織に到達後成熟する。組織内でさらに分裂・増殖する。
面 寿命は数日程度と短い、骨髄で常に新しく作られ、入れ替わりが早い。 寿命は数週間から数ヵ月と長く、組織に定着して長時間にわたり生体の監視を続ける。
時間 重症アレルギー(アナフィラキシーなど)や寄生虫感染時に血中で動員され、血管内で補助的な即時型反応に関与する。
また、慢性アレルギー炎症では、サイトカイン産生を介して遅延相や炎症の持続にも関与する。
アレルゲン侵入直後、組織局所でIgEを介して活性化され、数秒〜数分以内に脱顆粒(ヒスタミン放出など)を起こす。
即時型アレルギー反応の中心的エフェクター細胞として機能する。
診断思考 顆粒の色調のみで鑑別せず、まず細胞が出現する部位や背景病態「面」を考える。その上で、核形・顆粒の分布・細胞質所見などの形態「点」から、顆粒球系である好塩基球か、組織由来の肥満細胞かを判断する。

(b)形態・鑑別ポイント:好塩基球は、正常では末梢血および骨髄中に存在する造血細胞であり、慢性骨髄性白血病(CML)では好塩基球系細胞の増加がみられ、骨髄全体で好塩基球系の拡大を認める。一方、肥満細胞は、大型で主として組織内に存在する細胞であり、正常の末梢血にはほとんど出現しない。骨髄塗抹標本で肥満細胞が増加している場合には、全身性肥満細胞症などの病態を考慮する必要がある。また、両者は顆粒の性状にも違いがある。好塩基球の顆粒は水溶性が高く、塗抹標本作製時に脱顆粒しやすい。一方、肥満細胞の顆粒は比較的水溶性が低く、顆粒が保たれやすい。
機能的には、好塩基球は血中を循環して炎症部位へ動員され、急性アレルギー反応から慢性アレルギー炎症まで広く関与する。一方、肥満細胞は組織常在細胞として侵入抗原に対し直ちに脱顆粒を起こし、即時型アレルギー反応の初期応答を担う(写真1-6)。

写真1-6. 好塩基球(左) vs 肥満細胞(右)
写真1-6
点:核と顆粒を読む。 面:出現部位と背景を考える。
[形態](左)異染性、小型、非分葉核・クロマチンやや粗剛、空胞状細胞質(顆粒の溶出) (右)異染性、大型、小型で不明瞭な核、濃赤紫色の粗大顆粒で充満した細胞質。

(c)診断の鍵:まず「面」の視点から、存在部位(末梢血か組織・骨髄か)と出現背景を最初に確認する。次に「線」では顆粒球系 か肥満細胞系かという成熟系列を考える。そして最後に「点」では細胞サイズ・核形・顆粒の分布や密度を評価する。さらに「時間」では血中への動員細胞か、組織常在細胞かという生理学的役割を理解する。 

(d)診断思考:「異染性顆粒がある」ではなく、「なぜこの場所に存在する細胞なのか」を考える。存在部位(面)が分かれば、系統(線)と形態(点)の解釈が明確になる。

7)ウニ状赤血球 vs 有棘赤血球

(a)4つの視点:ウニ状赤血球(echinocyte)と有棘赤血球(acanthocyte)は、いずれも赤血球表面に突起を有するため混同されやすい。しかし、突起の形態や分布、出現背景には明確な違いがあり、病態との関連性も異なる。両者の鑑別は、突起の規則性という形態学的特徴「点」を起点に、塗抹標本全体の所見「面」や経時的変化「時間」を組み合わせて総合的に判断することが重要である(図14)。

図14. ウニ状赤血球 vs 有棘赤血球
視点 ウニ状赤血球 有棘赤血球
点 突起:短く細い、長さ・太さが均一、規則正しく分布、中央淡明は保持、円形の維持⇒均一・規則的な棘(とげ)。 突起:太くて鈍い、長さ・太さが不均一、数は少なく不規則、間隔も不均一、赤血球全体が歪(いびつ)⇒不均一・不規則な棘。
線 ATP低下やイオン環境変化などによる可逆的膜変形。 膜脂質組成や膜骨格異常による構造的膜異常。
面 尿毒症、ピルビン酸キナーゼ欠損症、電解質異常、ATP低下、EDTA保存・乾燥などの人工産物(アーチファクト)。 重症肝疾患、無βリポ蛋白血症、神経有棘赤血球症、脾摘後。
時間 出現・消失のくり返し、検体条件で増減する、病態改善で減少することがある。 持続的に観察される、基礎疾患が続く限り残存する。
診断思考 棘の規則性(点)を最初に観察し、続いて膜全体の変形様式(線)を評価する。さらに分布や背景(面)から人工産物か病的変化かを判断し、最後に一過性か持続性か(時間)を考えて病態を推定する。

(b)形態・鑑別ポイント:ウニ状赤血球の突起は、分布・長さ・太さが規則的で先端の尖りが特徴であるのに対し、有棘赤血球の突起は、分布・長さ・太さが不規則で先端が丸みを帯びていることが鑑別所見である。形態だけでなく形成機序まで連続して考えることが重要である。ウニ状赤血球では代謝異常のほか検体条件による可逆性変化を、有棘赤血球では膜脂質代謝異常や膜骨格異常による不可逆 性変化を考える(写真1-7)。

写真1-7. ウニ状赤血球(左) vs 有棘赤血球(右)
写真1-7
点:突起形態を読む。 時間:病的変化かアーチファクトかを考える。(左)突起:分布・長さ・太さが規則的、先端は尖る。
(右)突起:分布・長さ・太さが不規則的、先端は丸みを帯びる。

(c)診断の鍵:まず「点」の視点から、突起の形状・長さ・数・分布の規則性を最初に評価する。「面」では標本全体での出現頻度や塗抹・乾燥アーチファクトの有無、他の赤血球異常との組み合わせを確認する。「時間」では一過性(採血・保存・代謝異常など)か、持続性(膜異常・肝疾患など)かを確認する。

(d)診断思考:「突起がある赤血球」ではなく、「なぜその突起が形成されたのか」を考える。形態(点)から始め、背景(面)と経過(時間)を統合することで、膜異常の本態に近づくことができる。

【小括】

類似細胞の鑑別では、「点」(形態)だけではなく、「線」・「面」・「時間」の視点を統合して考えることが診断の鍵となる。しかし、細胞系列ごとに診断の決め手となる視点は異なる。それを意識して観察することで、形態所見を病態へと結び付けた診断思考が可能となる。診断原理とは、各細胞系列を鑑別する際に最も重視すべき視点と、その背景にある病態理解の基本的な考え方を示したものである。形態学的特徴を単に記憶するのではなく、「何を最初に読み、どのように考えるか」という診断思考の指針となる。図15に、系列ごとに異なる診断原理として、診断時に着目すべき視点とキーワードを示す。

図15. 系列ごとに異なる診断原理
系列 主な視点 診断で読むもの(キーワード)
顆粒球系 線 核成熟と顆粒形成の同期性を読む(成熟の同期性)
単球系 線 成熟系列の現在地を読む(成熟の連続性)
赤芽球系 線・面 赤芽球島の中で成熟を読む(系列性・共同体)
リンパ球系 面 集団の多様性と単調性を読む(集団性)
形質細胞系 面・時間 集団構成から病勢・進展を読む(時間的連続性)
好塩基球・肥満細胞系 面 局在性・分布様式を読む(局在性)
ウニ状赤血球・有棘赤血球 点 赤血球膜障害の可逆性・不可逆性を読む(膜障害)

2. 類似症例の鑑別

類似症例の鑑別では、「何が違うか」を列挙するだけでは十分ではない。重要なのは、「どの視点から違いを捉えれば鑑別に到達きるか」という診断思考である。本章では、点・線・面・時間という4つの視点を共通のフレームワークとして用い、代表的な類似症例を整理した。形態所見だけでなく、病態、背景、時間軸を統合して考えることで、鑑別のプロセスを体系的に理解できるよう構成した。各症例では、4つの視点(重要度)、病態の概念、診断に必要な検査、鑑別ポイント、診断思考、診断の鍵の順に解説する。なお、本項で取り上げる症例の一部を写真2に示した。

【表記ルール】

遺伝子名は国際命名法に従いイタリック体で表記した(例:JAK2、TP53、MYC)。 融合遺伝子はWHO分類第5版に準拠し、BCR::ABL1のようにダブルコロン(::)で表記した。タンパク質名(TP53)、免疫表現型(CD34、MPOなど)、染色体異常[t(9;22)、del(5q)など]は通常字(立)体とした。疾患名は初出時に正式名称を示し、その後は略語(CML、MDS、DLBCLなど)を用いた。

1) 急性赤芽球癆 vs 慢性赤芽球癆
【4つの視点】

赤芽球癆(PRCA)として、急性赤芽球癆(ヒトパルボウイルスB19感染症)と慢性赤芽球癆(胸腺腫関連)を提示する。ヒトパルボウイルスB19感染では「急激な変化(時間)」が診断の出発点となる。胸腺腫では「持続する赤芽球系障害(時間)」が診断の出発点となる。両者とも赤芽球系のみが抑制されるため、発症からの経過(時間)、赤芽球系抑制の推移(線)、骨髄全体の分布(面)を統合して判断することが重要であり、形態(点)のみでは鑑別できない(図16)。

図16. 急性赤芽球癆 vs 慢性赤芽球癆
視点 急性赤芽球癆
(ヒトパルボウイルスB19感染)
慢性赤芽球癆
(胸腺腫)
点 巨大前赤芽球(核内封入体・均一なガラス様核、空胞)を認める。
(ウイルス感染像)
巨大前赤芽球は通常みられず、赤芽球系細胞そのものが著減する。
特異的異型は乏しい。
線 赤芽球のみが一過性に障害され、他系列は比較的保たれる。 赤芽球系のみが選択的に持続して障害される。
他系列は概ね保たれる。
面 骨髄全体で赤芽球の系列が消失し、巨大前赤芽球が散在する。 骨髄全体で赤芽球の系列が消失する。
リンパ球増加など免疫異常を伴うことがある。
時間 急性発症。
一過性で自然軽快または免疫回復後に改善する。
慢性経過。
免疫異常が持続し、治療しなければ改善しにくい。
診断思考 「時間」で急性か慢性かを考え、次に「面」で赤芽球系列の減少を確認し、「線」で赤芽球系の選択的障害を評価する。
最後に「点」で巨大前赤芽球や核内封入体の有無から原因を推定する。

【病態の概念】

ヒトパルボウイルスB19感染は、赤芽球前駆細胞に発現するP抗原を介して感染し、赤芽球系のみを選択的に障害する。その結果、 一過性に赤芽球産生が停止する。骨髄では赤芽球島が急速に消失する。免疫正常者では自然軽快することが多いが、慢性溶血性貧血や免疫不全では重篤な赤芽球癆を来す。骨髄には巨大前赤芽球が出現する。核全体はウイルス複製産物の蓄積により、均質なガラス様核(ground-glass nucleus)を呈する。その内部には複製産物が局所的に凝集した封入体様構造を認める。慢性赤芽球癆は、赤芽球系のみが選択的に障害される自己免疫性疾患であり、胸腺腫をはじめ、リンパ増殖性疾患、自己免疫疾患、薬剤などに続発することがある。胸腺腫関連PRCAでは、胸腺におけるT細胞の分化・免疫寛容機構が破綻し、自己反応性T細胞が赤芽球前駆細胞を標的として障害する。その結果、骨髄では赤芽球系細胞が著減あるいは消失する一方、顆粒球系・巨核球系はほぼ保たれる。末梢血では高度の網赤血球減少を伴う正球性正色素性貧血を呈し、病態は持続性であることから、多くは免疫抑制療法や胸腺摘出術の適応となる。

【診断に必要な検査】

ヒトパルボウイルスB19感染:網赤血球著減、骨髄塗抹(巨大前赤芽球・核内封入体)、B19 DNA(PCR)、B19 IgM抗体(急性感染)、免 疫不全ではPCRが有用。胸腺腫:胸部CT(胸腺腫検索)、骨髄検査;赤芽球系のみ著減、網赤血球低下、自己免疫疾患(特に重症筋無力症)の検索、必要に応じて自己抗体・リンパ球解析。

【鑑別ポイント】

ヒトパルボウイルスB19感染は、急性発症、一過性で自然軽快しやすい、骨髄に巨大前赤芽球を認めることがある、B19感染を認め、 PCR-IgM検査で確定する。胸腺腫は、慢性経過、持続性あるいは再発性、赤芽球のみ消失、自己免疫、胸部CT・臨床経過で確定する(写真2-1)。

写真2-1. 急性赤芽球癆(左) vs 慢性赤芽球癆(右)
(ヒ トパルボウイルスB19感染/胸腺腫)
写真2-1
点:細胞から読む (巨大前赤芽球・核内封入体・成熟像)
線:赤芽球系成熟から読む(赤芽球系成熟の断絶か再生か)
面:骨髄背景から読む (赤芽球島・他系列とのバランス)
時間:経過・治療後から読む(一過性か持続性か)
[形態] (左)巨大前赤芽球の出現。均質なガラス様核とウイルス複製物質による核内封入体様構造を認める。 (右)赤芽球系細胞そのものが著減している。

【診断思考】

両者とも赤芽球系が著減するが、まず経過(時間)を確認する。急性発症で一過性ならヒトパルボウイルスB19感染を、慢性・持続性なら胸腺腫などによる慢性赤芽球癆を考える。そのうえで、骨髄における赤芽球減少(面)と巨大前赤芽球などの形態(点)を確認する。

【診断の鍵】

まず「時間」で急性か慢性かを判断する。次に「面」で赤芽球系の選択的抑制を確認し、「線」でその持続性や病態の流れを捉え、最後に「点」で巨大前赤芽球や核内封入体の有無を確認する。

【略語】

PRCA:pure red cell aplasia
P抗原:赤血球や赤芽球系前駆細胞の表面に存在する糖脂質

2) 巨赤芽球性貧血vs 骨髄異形成腫瘍
【4つの視点】

巨赤芽球性貧血(MA)と骨髄異形成腫瘍(MDS)の鑑別では、その形態異常が核成熟の均一な遅延(成熟乖離)によるものか、それとも各血球系列の成熟過程が系統ごとに破綻した異形成によるものかを見極めることが重要である。「線」(最重要)では成熟障害のパターンを評価し、「面」では異形成が多系統に及ぶか、さらに「時間」では可逆性か持続性かを統合して判断する。本症例は、「線」の異常の捉え方を学ぶ代表例である(図17)。

図17. 巨赤芽球性貧血(MA) vs 骨髄異形成腫瘍(MDS )
視点 巨赤芽球性貧血 MDS
点 巨赤芽球、核・細胞質成熟不均衡(成熟乖離)
過分葉核好中球の出現。
多彩な異形成(核異常・低顆粒・微小巨核球など)。
線 全造血系統にDNA合成障害が及ぶが、成熟系列は保たれる。 複数系列で異形成を伴う成熟障害・分化異常。
面 骨髄過形成で巨赤芽球性変化がびまん性に出現する。 異形成が複数系列に広がり、異常クローンが骨髄を占める。
時間 急性~亜急性発症。補充療法で速やかに改善する。 慢性・進行性。自然改善せず進行・AML化もある。
診断思考 (線)成熟異常のパターン、(時間)可逆性か持続性かの判断、(点)核・細胞質成熟解離と異形成、(面)異常は多系統に及ぶかを確認する。

【病態の概念】

MA:DNA合成障害により核成熟が遅れ、細胞質成熟との不均衡(成熟乖離)が起こる可逆性疾患である。造血細胞は増殖するものの、有 効造血が障害されるため骨髄では過形成、末梢血では汎血球減少を呈する。
MDS:造血幹細胞のクローン性異常による慢性的な異常造血 である。複数系列に異形成が持続し、無効造血による血球減少を来す。一部の病型ではAMLへ進展する。
MAでは成熟系列(線)は保た れ、核成熟のみが系列全体で一様に遅延する。一方、MDSでは成熟系列(線)そのものが乱れ、成熟障害と異形成が混在する。

【診断に必要な検査】

MA:CBC(MCV高値)、網赤血球、末梢血塗抹(過分葉好中球)、骨髄検査(巨赤芽球)、 血清ビタミンB12、葉酸、LDH・間接ビリルビン(無効造血)、必要なら抗内因子抗体・抗胃壁細胞抗体。
MDS: CBC、網赤血球、末梢血塗抹、骨髄穿刺・生検、染色体検査、遺伝子解析、フローサイトメトリー(補助診断)、ビタミンB12・葉酸測定(除外診断として重要)。

【鑑別ポイント】

MAでは、核成熟の遅延は各系列で比較的均一で成熟乖離を呈する。好中球の過分葉が特徴である。ビタミンB12・葉酸欠乏、治療により数日〜数週間で改善する、染色体異常は通常認めない。MDSでは、成熟障害は系列ごと・細胞ごとに不均一で、多彩な異形成を示す。偽Pelger核、低顆粒好中球、小型巨核球などが重要、ビタミン補充では改善しない、クローン性染色体異常・遺伝子異常を認めることがある、経過中にAMLへ進展し得る(写真2-2)。

写真2-2. 巨赤芽球性貧血(左) vs 骨髄異形成腫瘍(右)
写真1-1
点:赤芽球・好中球から読む (核・細胞質成熟の不一致と異形成)
線:成熟系列から読む(成熟遅延か異形成か)
面:骨髄像全体から読む (全系列性変化か赤芽球系優位か)
時間:治療前後から読む(補充で改善するか持続するか)
[形態](左)巨赤芽球と巨大桿状核球を認める。(右)芽球の出現と顆粒球系の形態異常(二核・偽ペルゲル核異常好中球)を認める。

【診断思考】

成熟系列の連続性(線)を評価し、成熟乖離主体か成熟破綻主体かを判断する。次に異形成が多系統に及ぶか(面)を確認し、経過(時 間)から可逆性か持続性かを考える。最後に核・細胞質成熟乖離や各種異形成などの形態異常(点)を確認する。

【診断の鍵】

まず「線」で成熟障害のパターンを読む。次に「時間」で可逆性か持続性かを考え、「面」で多系統性を確認し、「点」で形態異常を確 認する。

【略語】

MA:megaloblastic anemia
CBC:complete blood count

3)慢性骨髄性白血病 vs 非定型性慢性骨髄性白血病
【4つの視点】

慢性骨髄性白血病(CML)と非定型性慢性骨髄性白血病(aCML)の鑑別は、白血球数ではなく、成熟系列が保たれた増殖なのか、それとも成熟系列の破綻を伴う増殖なのかを評価し、その背景となる病態と経時的変化を統合して判断する。まず「線」(最重要)で成熟系列の連続性を確認し、「面」ではその増殖様式を評価し、「時間」では病態の推移から両者を鑑別する。この症例で学ぶ視点は「線」と「面」を統合する診断思考である(図18)。

図18. 慢性骨髄性白血病(CML)vs 非定型性慢性骨髄 性白血病(aCML)
視点 CML aCML
点 顆粒球系は比較的正常形態。異形成は乏しい。好塩基球増加が目立つ。 顆粒球に著明な異形成(核低分葉・核過分葉・低顆粒化など)。幼若細胞も混在。
線 骨髄芽球→前骨髄球→骨髄球→後骨髄球→桿状核球→分葉核球へ連続した成熟系列が保たれる。 成熟系列は存在するが、各段階で異形成を伴い成熟が乱れる。不完全・非効率な成熟。
面 骨髄全体で顆粒球系が均一に著増。成熟細胞主体で秩序ある過形成。 骨髄全体で顆粒球系過形成を示すが、異形成細胞が混在し配列の均一性が失われる。
時間 慢性期では成熟を保った増殖が持続し、経過とともに急性転化へ進行する。 慢性的に異形成を伴って進行し、骨髄不全やAMLへの移行を来すことがある。初期から成熟異常が主体。
診断思考 成熟系列(線)が保たれているかを確認する。保たれていれば、個々の細胞(点)に異形成がない かを評価する。さらに骨髄全体(面)の増殖様式が均一か不均一かを観察し、最後に時間軸から慢性期の秩序ある増殖か、異形成を伴い 進行する病態かを考える。

【病態の概念】

CML: BCR::ABL1融合遺伝子による恒常的チロシンキナーゼ活性化により、顆粒球系は分化・成熟能を保ったまま著明に増殖する。その ため成熟系列(線)は保たれ、骨髄全体(面)は均一な過形成を呈する。aCML:BCR::ABL1陰性で、ASXL1・SETBP1・ETNK1などの遺伝子異常を背景に生じるMDS/MPNである。増殖に加えて分化異常、成熟障害、異形成が同時に生じるため、成熟系列(線)は乱れ、骨髄全体(面)は不均一な増殖像を示す。すなわち、CMLは「成熟系列を保った増殖」であるのに対し、aCMLは「成熟系列そのものが破綻した増 殖」であることが本質的な違いである。WHO分類(2022)では、MDS/MPN with neutrophiliaへ名称変更されたが、ICC分類(2022)では形態学的異形成を重視して、従来通りaCMLの名称を採用している。

【診断に必要な検査】

CML: CBC、末梢血塗抹、骨髄検査、染色体検査(Philadelphia染色体)、BCR::ABL1(FISH、RT-PCR)、好塩基球増加の確認
aCML: CBC、末梢血塗抹、骨髄検査、BCR::ABL1陰性確認、骨髄異形成評価、次世代シークエンス(ASXL1・SETBP1など)

【鑑別ポイント】

CML:BCR::ABL1陽性、成熟系列が保たれる、異形成は乏しい、好塩基球増加を伴う、骨髄は均一な過形成、増殖主体。aCML:BCR::ABL1陰性、成熟系列が乱れる、異形成著明、好塩基球増加は目立たない、骨髄は不均一な過形成、増殖と異形成の併存(写真2-3)。

写真2-3. 慢性骨髄性白血病(左) vs 非定型性慢性骨髄性白血病(右)
写真1-1
点:好中球から読む(低顆粒傾向・核異形成)
線:成熟 系列から読む(成熟連続性の保たれ方)
面:骨髄像全体から読む(骨髄全体の造血パターン)
時間:経過・分子異常から読む(クローン進展と病勢)
[形態](左)幼若球から成熟好中球まで連続した成熟系列は保たれる。時に低顆粒を認める。(右)成熟障害を伴う好中球異形成(低顆粒・偽ペルゲル核異常)を認める。

【診断思考】

「線」で顆粒球系の成熟系列が連続して保たれているか、それとも成熟障害や成熟乖離によって乱れているかを確認する。次に「面」で骨髄全体が均一な増殖なのか、不均一で異形成を伴う増殖なのかを評価する。さらに「時間」で病態の推移や治療反応性を踏まえ、**成熟系列を保った増殖(CML)と成熟系列が破綻した増殖(aCML)を統合的に判断する。

【診断の鍵】

白血球数の多寡ではなく、「成熟系列(線)が保たれた増殖か、それとも成熟系列そのものが破綻した増殖か」を見極めることが、CMLとaCMLを鑑別する最大のポイントである。

【略語】

aCML:atypical chronic myeloid leukemia、MDS/MPN:myelodysplastic/myeloproliferative neoplasm、ICC:International Consensus Classification

4)慢性骨髄単球性白血病 vs 急性骨髄単球性白血病
【4つの視点】

慢性骨髄単球性白血病(CMML)と急性骨髄単球性白血病(AMML)の鑑別では、「線」で単球系列の成熟連続性が保たれているか、それとも芽球・前単球で成熟停止しているかを評価することが最も重要である。「面」では骨髄全体が慢性的な異形成造血を示すのか、それとも芽球によって正常造血が置換されているのかを評価する。「時間」では慢性から急性への移行か、de novo AMLかを考える。「点」では成熟単球主体か芽球主体かを確認する。これらを統合してCMMLとAMMLを鑑別する(図19)。

図19. 慢性骨髄単球性白血病(CMML)vs 急性骨髄単球性白血病(AMML)
視点 CMML AMML
点 成熟単球主体。異形成を伴うことがある。 大型単芽球・核小体明瞭・細胞質豊富・核異型が目立つ。
線 単球系が成熟を保ちながら増殖する。芽球は20%未満。 単芽球〜前単球が主体となり成熟停止する。芽球20%以上。
面 成熟単球・前単球・芽球が混在し連続性がみられる。骨髄全体に慢性的増殖。 単芽球・前単球がびまん性に増殖し正常造血を置換する。
時間 慢性に進行する。数か月〜数年かけて経過しAML化することもある。 急速発症。数週間〜数か月で急速に増悪する。
診断思考 (点)芽球と単球の割合および絶対数を評価する。
(線)分化系列が保持されているか、(面)骨髄全体の構築の把握、(時間軸)慢性から急性への変化を統合して鑑別する。

【病態の概念】

CMMLはMDS/MPNに分類される慢性骨髄性腫瘍であり、持続する単球増加と異常造血を特徴とする。単球系列は成熟能を保持したまま腫瘍性に増殖するため、成熟系列(線)は比較的保たれる。一方、AMMLの腫瘍性単球には核形不整や細胞質空胞などの形態異常を伴うことが多く、正常単球とは明らかに異なる形態を示す。また、一部の症例では骨髄線維化を伴い、約15~30%は追加の遺伝子異常を獲得してAMLへ進展する。このため、「時間」の視点では慢性から急性への移行を常に念頭に置く必要がある。したがってCMMLでは、「点」では単球の形態異常を確認し、「線」では成熟系列が保たれているかを評価する。さらに「時間」では芽球増加やAMLへの進展を示す変化がないかを統合して判断することが重要である。AMMLは急性骨髄性白血病の一病型であり、顆粒球系・単球系への分化能は保持しているものの、両系列とも正常な成熟は障害される。その結果、芽球および前単球を主体とする腫瘍細胞が急速に増殖し、正常造血を置換する。すなわち、「顆粒球系と単球系への分化は示すが、成熟停止を伴う急性白血病」である。

【診断に必要な検査】

CMML:[CBC・末梢血] 持続する単球増加>(≧0.5x109/L)、単球比率10%以上、芽球20%未満、[骨髄] 単球系増殖、芽球20%未満、異形成、 [FCM] 成熟単球;CD14、CD64、CD33陽性、[染色体・遺伝子] TET2、SRSF2、ASXL1(高頻度)、RUNX1など。
AMML: [CBC・末梢血] 芽球20%以上、単球増加、貧血、血小板減少、[骨髄] 芽球20%以上、顆粒球系・単球系の両系統が増殖、[FCM]骨髄芽球・単芽球;CD33、CD13、CD64、CD117陽性、CD34は症例により陰性、[染色体・遺伝子] KMT2A再構成、NPM1,FLT3,CBFB::MYH11(M4Eo)。
[細胞化学染色]両者共通:MPO染色;顆粒球系は陽性、単球系は陰性から弱陽性、NSE染色;単球系は陽性(NaF阻害)

【鑑別ポイント】

CMMLは、慢性経過、成熟単球主体、骨髄の芽球20%未満、成熟系列が保たれる、MDS/MPNのカテゴリー。AMMLは、急性経過、骨髄の芽球20%以上、顆粒球系と単球系の両系列が腫瘍性に増殖し、正常造血が置換される(写真 2-4)。

写真2-4. 慢性骨髄単球性白血病(左) vs 急性骨髄単球性白血病(右)
写真1-1
点:幼若細胞から読む(芽球・単芽球の特徴)
線:細胞系列から読む(成熟優位か芽球優位か)
面:骨髄背景から読む (単球系増殖・芽球占拠)
時間:経過から読む(慢性相から急性発症まで)
[形態](左)成熟単球が増加し、芽球は20%未満。(右)芽球・単芽球が20%以上を占め、顆粒球系・単球系の混在を認める。

【診断思考】

「点」で芽球か成熟単球かを確認する。次に「線」で単球系列の成熟連続性が保たれているか、それとも芽球・前単球で成熟停止しているかを評価する。さらに「面」で骨髄全体における芽球と成熟単球の分布や正常造血の残存を把握し、最後に「時間」でCMMLからAMLへ 進展した病態か、de novo AMMLかを総合的に判断する。

【診断の鍵】

まず「線」で単球系列の成熟連続性を確認し、「面」で正常造血が保持されているか、それとも芽球に置換されているかを評価する。この二つを統合することがCMMLとAMML鑑別の鍵となる。

【略語】

CMML:chronic myelomonocytic leukemia、AMML:acute myelomonocytic、Leukemia、FCM:flow cytometry、MPO:myeloperoxidase、NSE:non-specific esterase、NaF:sodium fluoride

5)反応性血小板増加症 vs 本態性血小板血症

【4つの視点】

反応性血小板増加症(RT)と本態性血小板血症(ET)の鑑別は、「同じ血小板増加でも、反応性か腫瘍性かをどう考えるか」という診断思考を学ぶ上で極めて重要である。血小板増加が正常造血の反応性変化なのか、それとも骨髄増殖性腫瘍(MPN)として巨核球系が自律的に増殖しているのかを見極めるには、巨核球系が生理的刺激に応答して増殖しているのか、それともクローン性に自律増殖しているのかという「線」を読むことが最も重要である。さらに、骨髄全体における巨核球の分布や集簇形成、他系列との関係を評価する「面」、一過性か持続性かを確認する「時間」、巨大血小板や血小板形態異常を評価する「点」と統合して診断する(図20)。

図20. 反応性血小板増加症 vs 本態性血小板血症
視点 反応性血小板増加症 本態性血小板血症
点 血小板形態は概ね正常。巨核球は成熟した正常形態で、核異型は目立たない。 大型~巨大血小板が出現。大型成熟巨核球が増加し、核の過分葉・異型を認める。
線 炎症や鉄欠乏に反応し、正常な成熟経路に沿って巨核球系が増殖する。 腫瘍性クローン由来の巨核球が自律的・持続的に増殖する。
面 巨核球は増加するが散在性で集簇はほぼない。他系列は保たれ、背景に原因疾患を伴う。 大型成熟巨核球が密に増加し緩い集簇を形成する。骨髄全体にMPNとしての構築変化を示す。
時間 原因疾患の改善とともに血小板数は正常化し、一過性・可逆性に経過する。 血小板増加は持続し、血栓症・骨髄線維症などへ進展することがある。
診断思考 (時間)から一過性か持続性かを考える。その上で骨髄全体の巨核球分布(面)、巨核球系の成熟・増殖様式(線)を評価し、最後に個々の血小板・巨核球形態(点)を確認する。

【病態の概念】

両者はいずれも血小板数が増加する病態であるが、その背景は大きく異なる。反応性血小板増加症では、感染症、炎症、悪性腫瘍、鉄欠乏、術後、脾摘後などの刺激により、サイトカインIL-6を介してトロンボポエチン産生が亢進し、正常な巨核球系が反応性に増生する。 一方、本態性血小板血症(ET)では、JAK2V617F、CALR、MPL遺伝子異常などを背景とした骨髄増殖性腫瘍であり、巨核球がクローン性に 自律増殖し、血小板増加を来す。血栓症や出血傾向を伴うことがあり、長期には骨髄線維症や急性白血病へ進展することもある。したがって、診断では「生理的な反応性増殖なのか」「クローン性腫瘍なのか」を見極めることが重要となる。
本症では、「線」は成熟系列ではなく、巨核球系の増殖様式を読む視点として捉えることが重要である。

【診断に必要な検査】

CBC・末梢血(血小板数の推移、巨大血小板、赤血球形態)、骨髄検査(巨核球数・巨核球形態・集簇形成・骨髄線維化)、生化学(CRP・ESR・フェリチン・血清鉄・TIBC・LDH)、遺伝子検査(JAK2V617F・CALR・MPL)、必要に応じて炎症・感染・悪性腫瘍の検索、脾摘の既往・脾腫の有無など。

【鑑別ポイント】

RT: 原因疾患を認める。巨核球形態はほぼ正常で集簇形成を認めない。炎症反応や鉄欠乏を伴うことが多く、原因の改善とともに血小板数は正常化する。ET: 明らかな原因疾患を認めず、大型で成熟した過分葉核巨核球が増殖し集簇形成を認める。JAK2V617F(約50 %)、CALR、MPL変異を認め、血小板増加は持続する(写真2-5)。

写真2-5. 反応性血小板増加症(左) vs 本態性血小板血症(右)
写真1-1
点:巨核球から読む (核形・分葉・異型性)
線:巨 核球成熟から読む (成熟異常の有無)
面:骨髄全体から読む(巨核球分布・集簇)
時間:経過から読む (反応性か持続性か)
[形態](左)巨核球に異型性を認めない。(右)大型成熟巨核球の増加と核分葉異常(核異型)を認める。

【診断思考】

「点」で巨大血小板や巨核球の形態異常を確認する。次に「線」で巨核球系が反応性に増殖しているのか、それともクローン性に自律増 殖しているのかを評価する。さらに「面」で骨髄全体における巨核球の分布や集簇形成、他系列との関係を把握し、最後に「時間」で血小板増加が一過性か持続性かを確認して、反応性か腫瘍性かを総合的に判断する。

【診断の鍵】

血小板数だけでRTとETを区別してはならない。まず巨核球系の『線』を読み、その増殖が生理的な反応性増殖なのか、クローン性の自律 増殖なのかを見極める。さらに骨髄全体の構築(面)と経時的変化(時間)を統合して判断することが重要である。

【略語】

RT:reactive thrombocytosis、ET:essential thrombocythemia

6)二次性赤血球増加症 vs 真性赤血球増加症
【4つの視点】

二次性赤血球増加症(secondary erythrocytosis :SE)と真性赤血球増加症(polycythemia vera: PV)は、ともに赤血球増加を呈するが、その本態は全く異なる。SEは低酸素やエリスロポエチン(EPO)増加に対する生理的・反応性造血であるのに対し、PVはJAK2変異を背景とした骨髄幹細胞の腫瘍性増殖である。血液像のみでは区別できないことも多く、骨髄像・EPO値・遺伝子異常を組み合わせた診断思考が重要となる。まず「面」で赤血球増加が単独なのか、骨髄全体の三系統増殖なのかを捉える。次に「線」では赤芽球系のみがEPO依存性の増殖しているのか、それとも造血幹細胞由来のクローン性増殖が三系統へ及んでいるのかを評価する。さらに「時間」で原因依存性・可逆性か、持続性・進行性かを確認し、最後に「点」で赤血球形態を補助的に観察する(図21)。

 図21. 二次性赤血球増加症 vs 真性赤血球増加症
視点 二次性赤血球増加症 真性赤血球増加症
点 赤血球形態はほぼ正常で、形態のみでは鑑別困難 赤血球形態はほぼ正常で、形態のみでは鑑別困難
線 赤芽球系主体の反応性増殖 赤芽球・顆粒球・巨核球の三系統増殖
面 赤血球増加が主体で骨髄構築は保たれる 骨髄全体が過形成となり三系統の増殖を示す
時間 原因の改善で可逆的に正常化する 慢性的に持続し、血栓症や骨髄線維症への進展を伴うことがある
診断思考 「面」として骨髄全体が三系統増殖か、赤血球系主体の反応性増殖かを判断する。「時間」で持続性か可逆性かを考え、「線」で増殖系列を確認し、「点」を補助的に評価する。 最後にEPO値とJAK2遺伝子異常で確定する。

【病態の概念】

SEは、低酸素状態(慢性閉塞性肺疾患COPD、高地居住、睡眠時無呼吸症候群など)やEPO産生腫瘍などによりEPOが増加し、正常な造血調節機構を介した二次的赤血球増加を来す反応性病態である。PVは、JAK2遺伝子変異により造血幹細胞がEPO非依存性(自律性)に増殖す る骨髄増殖性腫瘍(MPN)であり、赤血球のみならず顆粒球系・巨核球系にもクローン性増殖が及び、骨髄では三系統過形成を呈する。 すなわち、SEはEPO依存性の反応性造血であるのに対し、PVは造血幹細胞レベルのクローン性増殖であることが本質的な違いである。

【診断に必要な検査】

CBC(Hb・Ht・赤血球数・白血球数・血小板数)、末梢血塗抹標本、骨髄穿刺・骨髄生検、血清EPO値、JAK2V617F(陰性例ではExon12変異)、動脈血酸素飽和度・血液ガス、胸部画像、腹部画像(EPO産生腫瘍検索)、血清ビタミンB12・LDH(補助)

【鑑別ポイント】

[SE] 赤血球増加が主体、白血球・血小板は通常正常、骨髄は正常~赤芽球系優位の反応性増殖、EPO高値、JAK2陰性、原因疾患に応じて改善する。
[PV] 赤血球増加に加え白血球・血小板増加を伴うことが多い、骨髄三系統過形成(大型で成熟した過分葉核巨核球の増加)、EPO低値、JAK2陽性(約95%)、脾腫・血栓症を伴いやすい、慢性的に進行する。

【診断思考】

「面」で赤血球増加が単独なのか、それとも骨髄全体の三系統増殖なのかを確認する。次に「線」でEPO依存性の反応性増殖か、造血幹細胞由来のクローン性増殖かを評価する。さらに「時間」で一過性・原因依存性か、持続性・進行性かを把握し、最後に「点」で末梢血 形態を補助的に確認するとともに、EPO値およびJAK2変異を統合して診断する。

【診断の鍵】

赤血球数だけでPVと判断してはならない。まず「面」で三系統増殖の有無を確認し、「線」でEPO依存性の反応性増殖か、造血幹細胞由 来のクローン性増殖かを見極める。さらに「時間」で持続性を確認し、EPO値およびJAK2変異を統合して診断することが重要である。

7) Hematogones vs pre B-ALL

【4つの視点】

Hematogones(HGs:良性B細胞前駆細胞)とpre B-ALL(precursor B-cell acute lymphoblastic leukemia:前駆B細胞性急性リンパ性白血 病)の鑑別では、「時間」の視点が最も重要である。HGsは、治療後や骨髄再生時に出現する正常B前駆細胞であり、幼若細胞から成熟B細胞へ切れ目なく連続する成熟スペクトラムを示す。一方、pre B-ALLは腫瘍化により特定の分化段階で成熟が停止し、時間軸が途絶えたクローン性増殖を呈する。したがって、「成熟が連続しているか、それとも途中で停止しているか」を時間軸で捉えることが診断の出発点となる(図22)。

図22. Hematogones vs pre B-ALL
視点 Hematogones pre B-ALL
点 大小不同を伴う成熟段階が混在。クロマチンはやや粗剛で均一性、核小体は消失する。細胞質は徐々に増加する。 単調(monomorphic)な芽球が主体。クロマチンは粗剛~密で不均一、核小体を認めることが多い。N/C比が高く、細胞質は乏しい。
線 B細胞分化系列が連続的にみられ、成熟の流れ(グラデーション)が保たれる。 分化が停止し、同一段階の芽球が一様に増殖する。成熟の連続性が失われる。
面 骨髄全体では他系統造血が保たれ、正常造血の中に散在して増加する。多くは骨髄の再生時や回復期で認める。 骨髄では芽球がびまん性に増殖し、正常造血が抑制される。末梢血にも芽球が出現することが多い。
時間 一過性・可逆性で、回復に伴い自然に減少する。経時的に成熟像も変化する。 治療しなければ持続的に増加する。経時的には骨髄不全が進行し、化学療法後はMRD評価が重要となる。
診断思考 「点」だけで診断しない。「線」で成熟の流れを確認する。「面」で骨髄全体を評価する。「時間」で病態を読む。点では似ていても、線を読むことで診断が大きく変わる。Hematogonesは「成熟する細胞」、pre B-ALLは「成熟できない細胞」である。

【病態の概念】

HGsは、古くから知られる正常B前駆細胞であり、Muzaffarら(2009)はFCMによるHGsとpre B-ALLの鑑別法を整理し、その診断的意義を 示した。HGsは、小児骨髄では生理的にも認められ、さらに急性リンパ性白血病治療後、造血幹細胞移植後、悪性リンパ腫や重症感染症の回復期など骨髄再生時に増加する。HGsは正常B前駆細胞であり、幼若な段階から成熟B細胞へ向かって秩序ある分化の連続性(成熟スペクトラム)を保ちながら増加する。
一方、pre B-ALLではクローン性増殖により成熟が特定の段階で停止し、成熟スペクトラムは消失する。さらに、抗原発現の連続性も 失われ、異常な抗原発現パターン(antigen expression aberrancy)を示すことが特徴である。HGsは分化(成長)の段階によって、 stage1(TdT+,CD34+,CD10+,CD19+;非常に幼若細胞)、stage2(CD10+,CD19+;少し分化した細胞)、stage3(CD19+,CD20+;より成熟したB細胞)に分けられている。成熟に伴いCD34・TdTが減弱し、CD20が徐々に増強することになる。すなわち、HGsでは「時間」が細胞の成熟として可視化されるのに対し、pre B-ALLでは時間の流れそのものが腫瘍化によって停止している。

【診断に必要な検査】

HGsでは成熟に伴いCD34・TdT・CD10が段階的に減弱し、CD20や表面免疫グロブリンが徐々に発現するため、抗原発現は連続した成熟スペクトラムを示す。一方、pre B-ALLでは分化が停止した単一クローンが増殖し、本来連続して変化するはずの抗原発現が失われ、異常な抗原発現パターン(aberrant phenotype)を示す。したがってFCMでは、個々の抗原の陽性・陰性よりも、「抗原発現の連続性」を認めるか、「単一クローンとして異常な発現パターン」を示すかを評価することが重要である。すなわち、形態で観察する成熟スペクトラム は、FCMでは抗原発現の連続性として表現される。pre B-ALLでは、FCMに加え、染色体検査、FISH、RT-PCR、あるいは次世代シークエン ス(NGS)などによる遺伝学的評価を行い、ETV6::RUNX1、BCR::ABL1、TCF3::PBX1、KMT2A再構成などの代表的な異常を検索する。これらの遺伝学的異常はHGsでは認められず、腫瘍性B前駆細胞であることの証明とともに、予後予測や治療層別化にも重要である。

【鑑別ポイント】

HGsは、N/C比は高く、核形不整は軽度、クロマチンは繊細~やや粗剛で均一、核小体は不明瞭、細胞質は淡青色で弱好塩基性、多彩出 現が多い。pre B-ALLのリンパ芽球は、N/C比は高く、核形不整は顕著、クロマチンは粗剛~密で不均一、核小体は1~数個、細胞質は青色で強好塩基性、単調増加が多い。HGsは、クロマチンが均等に伸展し、風船を膨らませたような柔らかい核を思わせる。一方、pre B-ALLは、クロマチンが密に凝集し、硬く締まった核を思わせる。補助所見として、小児pre B-ALLではリンパ芽球がPAS染色にドット状 の強陽性を呈することがある。HGsでは幼若細胞から成熟細胞まで切れ目なく連続する成熟スペクトラムが観察される。pre B-ALLでは成 熟スペクトラムが消失し、特定の分化段階の細胞が単調に増殖する(写真 2-6)。

写真2-6. Hematogones(左) vs pre B-ALL
写真1-1
点:細胞形態から読む(N/C比・クロマチン・核小体・細胞質)
線:成熟系列から読む (成熟スペクトラムか成熟停止)
面:骨髄背景から読む (正常造血との調和・単調な増殖)
時間:病勢から読む(回復過程か白血病進展か)
[形態](左)クロマチンは均等に伸展し、柔らかく繊細な核を呈する。(右)クロマチンは密に凝集し、硬く締まった核を呈する。

【診断思考】

細胞集団全体を観察し、幼若細胞から成熟細胞へ連続した成熟スペクトラム(時間)が存在するかを確認する。次に細胞分布(面)や形 態(点)を評価し、必要に応じてFCMで抗原発現の連続性、あるいは異常な抗原発現パターンを確認する。

【診断の鍵】

「連続した成熟」を認めるか、それとも「成熟停止した単一クローン」を認めるかを見極めることが重要である。成熟スペクトラム(時 間軸)の有無がHGsとpre B-ALLを分ける最大の診断の鍵となる。

8) バーキットリンパ腫 vs びまん性大細胞型B細胞リンパ腫
【4つの視点】

「高悪性度B細胞リンパ腫(high-grade B-cell lymphoma:HGBL)の中で、均一な超高速増殖腫瘍(BL)か、多様性を示すDLBCLかを見極める」ことが本質である。最も重要なのは「点」と「線」である。細胞の均一性、核小体、クロマチン、細胞質空胞などを点で観察し、成熟B細胞由来という共通の背景を踏まえ、腫瘍細胞集団が均一なクローンとして増殖しているのか、それとも多様性を示すのかを「線」として評価する。さらに、starry-sky(星空)像やびまん性増殖の背景を面で評価し、極めて急速な病勢か、比較的緩徐な進行かを時間で判断する(図23)。

図23. バーキットリンパ腫(BL) vs びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)
視点 BL DLBCL
点 均一な中型細胞。核小体は小さく、好塩基性細胞質と空胞を伴うことが多い。 大型細胞主体。細胞・核の大小不同や核小体の明瞭化など、多形性が目立つ。
線 MYC活性化により均一で超高速な細胞増殖を示す。分化様式は比較的一定。 分子異常が多様で、増殖速度や分化様式にも症例ごとの幅がある。
面 単調なびまん性増殖とstarry-sky像が典型的。Ki-67陽性(ほぼ100%)。 びまん性増殖を示すが、細胞構成は不均一で、starry-sky像は目立たないことが多い。Ki-67は高値だが一定ではない。
時間軸 数日〜数週間で急速に進行する超高増殖性腫瘍。 進行は速いがBLほど一様ではなく、臨床経過には幅がある。
診断思考 細胞の大きさだけで判断せず、まず均一性(点)を評価する。次に増殖様式(線)、組織全体の構築(面)、さらに増殖速度(時間)を統合し、MYC遺伝子変異とKi-67指数を組み合わせてBLとDLBCLを鑑別する。

【病態の概念】

BLは、MYC遺伝子活性化を主体とする極めて増殖能の高い成熟B細胞腫瘍であり、ほぼ均一な中型細胞が単調に増殖する。一方、DLBCLは成熟B細胞由来の高悪性度リンパ腫であるが、形態学的・分子遺伝学的に極めて多様であり、細胞大型化や核異型が目立つ。したがって両者の鑑別では、細胞の均一性、核の形態、増殖背景、Ki-67、MYC転座を総合的に評価する。さらに形態が中間的で、MYCとBCL2または BCL6再構成を伴う場合には、高悪性度B細胞リンパ腫(HGBL)を考慮する。すなわち、BLは均一な超高速増殖腫瘍であるのに対し、DLBCLは形態学的・分子学的多様性を示す高悪性度B細胞腫瘍である。

【診断に必要な検査】

末梢血・骨髄塗抹標本、リンパ節・腫瘍生検、FCM、免疫染色(CD20、CD10、BCL6、BCL2、Ki-67など)、EBER-ISH、 FISH(MYC遺伝子転 座)、染色体検査、遺伝子解析

【鑑別ポイント】

BL:中型細胞が均一に増殖、2~5個程度の小型核小体、クロマチンは比較的均一で中等度凝集、強好塩基性細胞質、打ち抜き状空胞を認めることが多い、Ki-67(ほぼ100%)、starry-sky像(典型的)、MYC転座陽性、BCL2陰性〜弱陽性。BL細胞の空胞は脂質を含み、Oil Red O(Sudan III)染色で陽性を示すことがある。
DLBCL:大型細胞主体、細胞の大小不同(顕著)、1個以上の大型核小体、核形不整や細胞大小不同など形態学的多様性が目立つ、Ki-67は高いが症例差が大きい、MYC転座は一部症例、BCL2陽性例が多い。MYC遺伝子転座に加えてBCL2またはBCL6の再構成を伴う(ダブルヒットリンパ腫)は、高悪性度B細胞リンパ腫(HGBL)に分類され、極めて進行が速く難治性を示すことがある(写真2-7)。

写真2-7. バーキットリンパ腫(左) vs びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(右)
写真1-1
点:腫瘍細胞を読む(核小体・クロマチン・細胞質空胞)
面:細胞分布と背景を読む(均一性・星空様・壊死・混在細胞)
時間:病勢を読む(増殖速度と進行性)
[形態](左)比較的均一な中~大型細胞で、打ち抜き状空胞や分裂像を認める。(右)大小不同を伴う大型細胞で、核形不整と大型な核小体、空胞を認める。
【診断思考】

「点」で核小体、クロマチン、細胞質空胞などを観察し、細胞が均一か多様かを評価する。次に「線」で腫瘍細胞集団が均一なクローン として増殖しているのか、それとも形態学的多様性を示すのかを把握する。さらに「面」でstarry-sky像やびまん性増殖の背景を観察 し、「時間」でKi-67、MYC異常および病勢を統合して診断する。

【診断の鍵】

細胞の大きさだけでBLとDLBCLを区別してはならない。『点』で個々の細胞形態を読み、『線』で腫瘍集団の均一性を捉え、『面』で増 殖背景を確認し、『時間』で増殖速度と病勢を統合して診断する。

【略語】

BL:Burkitt lymphoma、DLBCL:diffuse large B-cell lymphoma、EBER-ISH:EB virus-encoded RNA in situ hybridization

9) 反応性B細胞豊富型リンパ増殖症 vs B細胞性悪性リンパ腫
【4つの視点】

WHO分類(2022)では、悪性リンパ腫との鑑別を要する反応性病変群として、reactive B-cell-rich lymphoid proliferations(反応性B 細胞豊富型リンパ増殖症)が取り上げられている。反応性B細胞豊富型リンパ増殖症とB細胞性悪性リンパ腫は、ともに多数のB細胞が出現するため、一見類似してみえる。しかし本質は、「正常免疫応答による多クローン性増殖」か、「単一クローンの腫瘍性増殖」かの違いである。個々の細胞の異型性のみでは鑑別できないことも少なくない。そのため、最も重要なのは「面」である。個々の細胞だけではなく、細胞集団全体の構築を見ることが診断の出発点となる。「点」だけで判断せず、「面」を中心に、「線」と「時間」を加えて総合的に評価することが重要である。細胞異型の程度は(点)で捉え、成熟過程・多様性は(線)で確認し、組織構築や細胞集団全体は(面)で評価し、一過性か持続・進行性かは(時間)で判断する。4つの視点を統合することで、「正常免疫応答」と「腫瘍性増殖」という病態の本質を読み分けることができる(図24)。

図24. 反応性B細胞豊富型リンパ増殖症 vs B細胞性悪性リンパ腫
視点 反応性B細胞豊富型リンパ増殖症 B細胞性悪性リンパ腫
点 大小不同で成熟B細胞・形質細胞・免疫芽球が混在し、異型は軽度。 比較的均一な悪性リンパ腫細胞が増殖し、核異型や大型細胞が目立つ。
線 胚中心から形質細胞まで成熟系列が連続する。 成熟系列が単調で、同一クローン細胞が主体となる。
面 リンパ節構築は概ね保たれ、多彩な細胞が混在する。 リンパ節構築が破壊され、単一細胞集団がびまん性または結節性に増殖する。
時間 感染・炎症の改善とともに縮小・消退する。 持続的に増殖し、進行・再発を示す。
診断思考 細胞異型で決めつけないこと。まず「面」で組織構築の保全・破綻を評価し、「時間」で一過性か持続性かを確認し、最後に免疫表現型・クローナリティで裏付けるという診断思考がよい。

【病態の概念】

反応性B細胞豊富型リンパ増殖症は、感染症、自己免疫疾患、炎症などに伴う正常免疫応答であり、多様な成熟段階のB細胞とT細胞が混在する多クローン性増殖である。WHO分類(2022)では、このような反応性病変の代表例として、IgG4関連疾患や単中心性Castleman病などが挙げられている。一方、悪性リンパ腫は単一B細胞由来の単クローン性増殖であり、正常リンパ節あるいはリンパ組織の構築が破壊 され、同一形態の異型細胞がびまん性あるいは結節性に増殖する。したがって、診断では、「細胞そのもの(点)」だけではなく、「成熟の連続性(線)」、「細胞集団全体の構築(面)」、さらに「クローン性や臨床経過(時間)」を統合して評価することが重要である。

【診断に必要な検査】

末梢血・骨髄・リンパ節(細胞多様性・成熟段階・濾胞構築・異型細胞割合)、免疫染色・フローサイトメトリー:反応性( κ/λ比ほぼ正常・CD10・BCL2正常分布・多クローン性)、悪性(light-chain restriction(κ/λ偏倚)、異常免疫表現型、CD5・CD10・BCL2など異常発現)、クローナリテイ解析(IgH再構成・PCR・NGS)、遺伝子(必要に応じ、MYC・BCL2・BCL6-FISH・染色体検査)、臨床情報(感染症、自己免疫、EBV、経過観察、PET/CT、病変分布、経時的変化)。

【鑑別ポイント】

反応性B細胞豊富型リンパ増殖症は異型細胞を認めても多様な成熟細胞が混在する。リンパ節構築は比較的保持され、原因疾患の改善と ともに縮小する。悪性リンパ腫は単クローン性増殖を反映して同一形態の細胞が優勢となる。

【診断思考】

細胞集団全体(面)を観察し、多様性と正常構築が保たれているかを確認する。次に成熟系列の連続性(線)を評価し、多クローン性を示唆する多彩な成熟像か、単調な増殖像かを考える。 最後に個々の細胞(点)の異型性を確認し、さらに臨床経過(時間)とクローン性解析を統合して、反応性か腫瘍性かを判断する。

【診断の鍵】

細胞だけを見て悪性リンパ腫と判断してはならない。まず「面」で細胞集団全体を読み、「線」で成熟の連続性を確認し、「点」で異型 性を評価する。最後は臨床経過とクローン性解析を統合して判断する。

【小括】

類似症例の鑑別では、個々の細胞形態だけでは診断に到達できないことが少なくない。重要なのは、「点」で細胞形態を把握し、「線」 で分化・成熟や系列の連続性を確認し、「面」で細胞集団や組織全体の構築・構成を評価し、「時間」で病態の推移や治療反応、クローン性の変化を統合して考えることである。4つの視点を組み合わせることにより、形態所見は単なる「形の違い」ではなく、病態を読み解くための情報となり、診断の根拠がより明確になる。類似症例の鑑別とは、個々の所見を比較することではなく、それぞれの所見が示 す病態を統合して考える診断思考の実践である。すなわち、「点・線・面・時間」は観察手順ではなく、病態を立体的に読み解くための思考の座標軸である。

3. 4つの視点による白血病の層別化と予後予測

現代の白血病診療では、形態診断に加え、染色体・遺伝子異常、免疫表現型、病変の広がり、治療反応性など、多面的な情報を統合してリスク層別化が行われる。この考え方はWHO第5版、ICC分類、およびELN 2022 Recommendationsに共通している。本項では、ELN分類やWHO分類(2022)、ICC分類の考え方を踏まえ、AMLおよびALLを「点・線・面・時間」の4つの視点から整理する。本項では、「点」を形態学的な細胞所見ではなく、白血病細胞が有する遺伝子・染色体異常という最小単位の情報として捉え、4つの視点を分子病態へ拡張 して整理する。

「点(遺伝子・染色体・分子異常)」 :AMLでは、t(8;21)、inv(16)、NPM1変異などは予後良好群に位置づけられる一方、TP53変異や複雑核型は予後不良群とされ、治療強度や造血幹細胞移植適応の判断に直結する。ALLでは、t(9;22)(Philadelphia染色体陽性ALL)の有無が重要な層別化因子であり、チロシンキナーゼ阻害薬併用の適応を決定する。ここでいう「点」は、細胞形態ではなく、白血病細 胞がもつ分子異常という最小単位の情報を意味する。

「線(分化系列・免疫表現型)」:AMLでは、芽球が顆粒球系、単球系、赤芽球系など、どの分化系列に属するかを評価することが重要であり、APLではATRAや亜ヒ酸療法など病型特異的治療へと結びつく。ALLでは、B-ALLとT-ALLで治療プロトコールや中枢神経浸潤リスクが異なる。さらに、混合表現型急性白血病(MPAL)は複数系列のマーカーを発現するため、高リスク群として造血幹細胞移植が検討されることが多い。分化系列を正しく捉えることは、白血病細胞がどの分化段階・系列から生じたかを理解することであり、病型分類と治療選択に直結する。

「面(病変の分布・浸潤)」:AMLでは病変の主体は骨髄および末梢血であるが、単球系白血病では歯肉や皮膚などへの骨髄外浸潤を形成しやすい。一方、ALLでは中枢神経、縦隔、肝脾、精巣などへ病変が広がりやすい。「面」は、病変が体内のどこに、どのような広がりをもって存在するかを評価する視点であり、治療方針や予後予測にも重要である。

「時間(治療反応性・微小残存病変:MRD)」:治療開始後の一定時点(例:導入療法終了時)にMRDを測定し、白血病細胞がどの速 度で減少したかを評価する。早期にMRD陰性化が得られる症例では再発リスクは低く、MRD陽性が持続する症例では高リスク群へ再分類され、治療強化や造血幹細胞移植が検討される。すなわち、「時間」は治療反応性を定量的に評価し、将来の予後を予測する極めて重要な視点である。

【診断思考】

まず遺伝子・染色体異常(点)から白血病の本質を把握する。次に分化系列・免疫表現型(線)を確認し、病変の分布(面)を評価す る。さらに治療反応性やMRD(時間)を追跡し、病態を静的ではなく動的に捉えることで、リスク層別化と最適な治療方針を決定する。

【略語】

ELN分類:European leukemiaNet、ALL: acute lymphoblastic leukemia、APL: acute promyelocytic leukemia、ATRA: all-trans retinoic acid、MPAL: mixed phenotype acute leukemia、MRD: minimal residual disease

【小括】

「点・線・面・時間」の4つの視点は、形態診断のためだけの観察法ではない。形態学では「点」は細胞、「線」は成熟系列、「面」は骨髄全体、「時間」は成熟や病態の推移を表す。一方、白血病診療では、「点」は遺伝子・染色体異常、「線」は分化系列・免疫表現型、「面」は病変の分布・浸潤、「時間」は治療反応性やMRDへと対象が拡張される。しかし、その本質は変わらない。すなわち、最小単位の情報(点)を起点として、連続性(線)、全体像(面)、変化(時間)へと視点を広げながら病態を統合的に理解する診断思考である。この考え方は、形態診断から分子診断、さらには予後予測や治療戦略に至るまで、一貫した思考の枠組みとして応用することができる。

4. 末梢血と骨髄像 -「結果」と「現場」をつなぐ診断思考-

血液形態診断は、末梢血で異常を捉え、必要に応じて骨髄像でその本態を確認するという流れで進められる。そのため、末梢血と骨髄を別々に評価するのではなく、両者を関連付けて読むことが重要である。すなわち、末梢血だけで診断を完結させるのではなく、骨髄像と対比しながら病態を理解するという診断思考が求められる。以下に、その考え方を「点・線・面・時間」の4つの視点から示す。

【点】何をみるか [末梢血]異常細胞、赤血球形態、血小板形態 [骨髄]各系列細胞の形態、異形成、芽球 【線】成熟が保たれているか [末梢血]左方移動、幼若細胞の出現 [骨髄]成熟停止、成熟の連続性、各系列の増殖パターン 【面】分布を見る [ 末梢血]汎血球減少、白血球増加、赤芽球出現 [骨髄]M/E比、細胞密度、赤芽球島、巨核球分布、腫瘍細胞浸潤 【時間】病勢を読む [末梢血]芽球増加、血球減少の進行 [骨髄]芽球割合の変化、骨髄線維化、治療反応、再発。

【診断思考】

末梢血は病態が全身に現れた「結果」を示し、骨髄はその異常が生じている「現場」を示す。したがって、末梢血で異常を認めた場合には、その背景となる骨髄病態を常に意識し、逆に骨髄所見を評価する際には、それが末梢血にどのように反映されるかを考えることが重要である。両者を「点・線・面・時間」の4つの視点から対比することで、病態を静的ではなく立体的かつ動的に理解することができる (図25)。

【診断の鍵】

末梢血だけを見ても、骨髄だけを見ても診断は完成しない。結果(末梢血)と現場(骨髄)を往復しながら、「点・線・面・時間」の4つの視点で統合して考えることが、血液形態診断の基本である。

図25. 末梢血と骨髄像 -「結果」と「現場」をつなぐ診断思考-
視点 末梢血(結果) 骨髄(現場)
点 細胞形態 細胞形態
線 成熟異常・分化異常 分化・成熟過程
面 リンパ節構築は概ね保たれ、多彩な細胞が混在する。 造血全体
時間 経過・推移 病勢・治療反応持続的に増殖し、進行・再発を示す。
診断思考 末梢血は病態の「結果」を、骨髄はその「現場」を映し出す。
両者を点・線・面・時間の4つの視点で統合して読むことが、形態診断の本質である。

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