第100回 「マンスリー形態マガジン」 2019年8月号

『100回記念のマンスリー形態マガジンに寄せて』

  2011年3月から発信しました「マンスリー形態マガジン」は、お陰様で8月号を持って第100回を迎えることができました。この前身となる「電脳塾データベース」では、2006年10月から配信を始め、現在でも皆さまに数多く閲覧していただいております。おります。これらの企画は、小職とベックマン・コールターさんの構想が合体し、ベックマン・コールターさんのホームページ上でスタートしました。
  第100回を迎える「マンスリー形態マガジン」ですが、現在は細胞同定と症例検討のコンテンツを掲げています。第1回からの内容は、細胞同定や細胞化学染色での判定など細胞の読解力の向上を目的に取り組んでいましたが、第37回あたりから現在のようなスタイルにいたしました。また、冒頭のエッセイは、毎回世相の話題を取り上げていますが、私にとって毎月頭を悩まされるものであります。皆さまもお気付きかもしれませんが、どうしても大好きな大河ドラマや地元の九州地区の話題が多くなっておりますことをご容赦ください(笑)。このような血液形態のデータベースは、数少なく、継続することに大きな意味がありますので、100回を迎えたことへの達成感を感じながら、これからも微力ですが継続していきたいと思います。尚、小職の発信内容や情報については、私見や私案を述べることもありますので、拝読をいただいた皆さまにとって必要とされます内容や情報をご利用いただければ幸いです。
  令和の時代を迎え、現在、第100回を記念した新しい企画の準備を進めております。皆さまのご意見をいただきながら、ご満足いただけるようスタッフ一同が意気込んでおりますので、今後ともご愛顧のほどよろしくお願い申し上げます。

形態マガジン号キャプテン 阿南 建一 


著作権について

今回のねらい

  今回は、細胞同定と症例検討を提示しました。
細胞編は、骨髄の赤芽球系を提示しました。正赤芽球を対照にして形態異常の捉え方に挑戦します。

症例編は、末梢血のリンパ球増加症を提示しました。反応性なのか腫瘍性なのか、その線引きと鑑別疾患には何があるのかを追究してみたいと思います。

問題

骨髄の赤芽球の同定を行なって下さい。

1-1<問題1-A>

  • PB-MG×1000

1-2<問題1-A>

  • PB-MG×1000

1-3<問題1-C>

  • PB-MG×1000

1-4<問題1-D>

  • PB-MG×1000

末梢血のリンパ球増加症です。考えられる疾患は何でしょうか。

2-1<設問1>

【所見】
A:小児. 主訴;急性気道感染、WBC45,600/μL、貧血なし・血小板数正常
B:成人. 主訴;発熱・リンパ節腫脹、WBC13,000/μL、貧血なし、血小板数正常
C:高齢. 主訴;脾腫、WBC15,200/μL、貧血、血小板減少

  •  PB-MG×1000

解答・解説

問題 1

   骨髄の赤芽球の同定を行なって下さい。

【解説】

BM-MG×1000




今回は、骨髄における赤芽球系の同定に挑みます。正常型から大型さらに巨大化する形態に着目しますが、なかでも大型の赤芽球を区分けする必要があるのかを考えてみます。赤芽球の核は、ほぼ円形で細胞質の中心に位置し、DNA合成障害により核の成熟乖離(核の遅延現象)が発生することを考えると、細胞質の色調を優先にして同定する方が望ましいようです。

【正答】
A-1. 多染性大型赤芽球、B-1. 2. 多染性赤芽球, 3.正染性赤芽球、C. 前赤芽球、D-1.多染性赤芽球 2. 多染性巨赤芽球

【解説】
A-1. 直径16µm大、細胞質は好塩基性に近い多染性でクロマチンの凝集塊は散在性です。
A-1.は、B.の正赤芽球より大きく、D.の巨赤芽球に比べると小さめです。骨髄分類で1個や2個の出現については問題ないのでしょうが、目に付くようであれが大型赤芽球として分類した方がよいと思われます。
この現象は、赤芽球系の著減が認められる再生不良性貧血などにみられ、Hb量を捕捉(増量)するために現存する多染性赤芽球がとった行動と思われ、細胞質の拡大化がそれを証明しているように思えます。この場合、MCVは100fL前後の大球性を呈することがあります。

B-1. 2. 直径13µm大、細胞質の多染性の色調とクロマチンの凝集塊を認めることから多染性赤芽球と同定しました。B-3.は、多少小さくなり細胞質の好酸性の色調とクロマチンの凝集塊が強いことから正染性赤芽球に同定しました。

C. 直径21µm大、大型で細胞質の好塩基性は強度、細胞質の9時方向にはゴルジ野がうかがえます。細胞質には舌状突起がみられ、クロマチン網工は粗顆粒状のようで前赤芽球に同定しました。

D-1. 直径10µm大、小型で細胞質は多染性の色調であることから多染性赤芽球に同定しました。
D-2. 直径23µm大、大型で細胞質は多染性の色調ですが、クロマチンの凝集塊は顕著ではなく、むしろ繊細気味です。本細胞は細胞質の発達に対して核が遅延している現象(成熟乖離)が起こったものと思われ多染性巨赤芽球に同定しました。



問題 2

   

【解説】

(PB-MG×1000)

今回は、末梢血のリンパ球増加症の3例を提示しました。3症例ともリンパ球の形態は少しずつ異なるようですが、僅かな臨床像と血算値から診断を予測してみましょう。

【臨床診断】
A. 百日咳菌感染症、B. 伝染性単核球症、C. ヘアリー細胞白血病

【解説】
A. 小児例:急性気道感染、すなわち痙攣性の咳発作を主訴に来院し、白血球数増加のなか、小型リンパ球(14µm大)が80%と著増していました(36,000/µL)。数量的異常から腫瘍を考えますが、リンパ球の形態はN/C比が低く、核形不整や核小体を認めず反応性のようです。咳発作を考慮すると百日咳菌感染症を考え、培養検査(グラム陰性桿菌)、抗百日咳毒素抗体や遺伝子検査での証明が必須となります。

B. 成人例:発熱、リンパ節腫脹、肝脾腫と悪性の三徴と咽頭炎がみられました。白血球数増加のなか、リンパ球は45%と増加していました(5,850/µL)。リンパ球は中型(16µm大)で好塩基性の細胞質は豊富で一部にアズール顆粒を有し、N/C比は低く、核形不整は軽度で核小体は認めないことから反応性リンパ球(異型リンパ球)を考えます。ウルス抗体検査で初期感染には抗VCA-IgM抗体・抗EA-IgG抗体が、既往感染には抗EBNA抗体・抗VCA-IgG抗体の有無を検索します。

C. 高齢:細胞はかなり大型に見えますが、背景の赤血球から推測すると16µm大です。
この標本は、ウエッジ法による強制乾燥標本です。軽度好塩基性の豊富な細胞質には突起や一部にアズール顆粒を有するリンパ球が46%みられました(6,992/µL)。これらは目玉焼き状を呈し、巨大脾腫を加味するとヘアリー細胞白血病(HCL)が疑われ、関連の細胞マーカーの検索が必須です。また、ヘアリー細胞を確認するには自然乾燥標本の作製も必要となります。



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