第119回「マンスリー形態マガジン」2021年3月号

『 麒麟を夢見た二つの涙 』

 戦国武将、明智十兵衛光秀(光秀)の生涯を描いたNHK大河ドラマ『麒麟がくる』は、2月7日(日)の放送をもってフィナーレを迎えました。最終回は、このドラマのクライマックスでもある「本能寺の変」で、どのような結末が描かれているのかが知りたくてBS放送、地上波放送とついつい二度見をしてしまいました。ここで言われる“麒麟”とは、私たちが動物園などで接するキリンではなく、  戦のない泰平な世に現れる伝説の動物であり、その外見は、国内ビールメーカーのラベルにも描かれております。

 さて、ドラマの最終回ですが、光秀の謀反と知った織田信長(信長)は、涙を浮かべ安堵した表情で“是非もなし”と言い、屋敷に火を放ち、自刃します。一方、本能寺の門前で様子をうかがっていた光秀は、若かりし頃の信長との出会いや家臣となった光秀と信長が目指す平らな世の語らいなどを回想しながら涙していました。この「本能寺の変」は、信長の家臣であった光秀が、京都本能寺で天下人信長に謀反を起こした日本史上最大のクーデターでその真相は現在も謎とされています。さまざまな諸説があり、光秀の野望説、信長に対する怨恨説や時の朝廷の黒幕説など未だ解明されておりません。このドラマでは、これまでの諸説ではなく、光秀は信長を討つことで各地で起こっている戦をなくし、一日も早い泰平な世を築くために立ち上がったとされていました。その後の光秀は、羽柴秀吉(秀吉:豊臣秀吉)との“山崎の戦い”に破れて落ち延びる中、落ち武者狩りに遭い最期を迎えたとされていますが、ドラマでは丹後の国(現在の京都府北部)で生き延びた光秀の姿が描かれていました。戦乱の時代を生き抜いた二人の武将は、結局麒麟を見ることはできませんでしたが、本能寺の変から約20年後に江戸幕府が誕生して彼らが待ち望んだ泰平の世が訪れました。

 先日、非常事態宣言が解除されましたが、国内での新型コロナ感染者は45万人を超え、死亡者数は8,900名を数えています(3.24.2021 厚労省HP)。未だにこの終息を見通せない状況が続いており、我々の穏やか日常には程遠い毎日ですが、泰平の世に現れるとされる麒麟を待ちわびながら、私自身も暫くは頑張りたいと思います。

国内で最初に咲く沖縄の寒緋桜(かんひざくら)です。今年の春も我が友を弔うかのように見事に咲き誇っていました。
今年はコロナ渦の中、墓前に行くことがかないませんので、わざわざ春の便りを届けてくださいました。
(撮影:津崎律子さん.本部町八重岳.2021.2.6)

                                                  

形態マガジン号キャプテン 阿南 建一


MAPSS-DX-202103-34


著作権について

今回のねらい

 今回の細胞編は、骨髄像における顆粒球系および赤芽球系細胞を中心に出題しました。細胞の大きさ、核質の構造、細胞質の色調などの所見を重視して同定を行ってみてください。
 症例編は、乳児期を終えた幼児にみられた稀な症例です。骨髄の特徴ある細胞が診断づけるようですので見落とさないことが重要です。光顕的所見と僅かな検査所見を参考にして、形態診断を行ってください。また、形態診断に不可欠な検査所見や鑑別疾患についても考えてみてください。

問題

問題1

1-1<設問> 骨髄の細胞同定を行ってください。

  • BM-MG.1000

1-2<設問> 骨髄の細胞同定を行ってください。

  • BM-MG.1000

1-3<設問> 骨髄の細胞同定を行ってください。

  • BM-MG.1000

1-4<設問> 骨髄の細胞同定を行ってください。

  • BM-MG.1000

問題2

2-1この症例の形態所見から考えられる疾患は何でしょうか。 また、鑑別する疾患とそのポイントも考えてください。

【1歳代.男児】  肝脾腫大、リンパ節腫大、顔貌異常なし 
WBC 4,200/μL、RBC 345万/μL、Hb 8.0g/dL、Ht 25.2%、PLT 5.3万/μL、BM-NCC 1.0万/μL

  • BM-MG.400

  • BM-MG.600

  • BM-MG.1000

  • BM-PO.1000

  • BM-PAS.1000

  • BM-ACP.1000

解答・解説

問題 1

骨髄における顆粒球系、赤芽球系、単球の鑑別について挑戦します。

【正答】

A-1.~3.前骨髄球 4.桿状核球 5.分葉核球
B-1.骨髄球 2.前骨髄球 3.単球
C-1.単球 2.分葉核球、3.桿状核球
D-1.多染性赤芽球 2.多染性赤芽球 3.好塩基性赤芽球 4.多染性赤芽球

【解説】

A-1.~3.大きさは違いますが、ともにゴルジ野や核偏在、そして顆粒を有する点は類似しています。
成熟度から2.はN/C比がやや高く、クロマチン網工が繊細で好塩基性が強く、幼若型、3.は分裂直前と思われ、大型(細胞径23μm大)、1.は分裂後と思われ、3.より小型のようです。
4.と5.は好中球で、4.は棒状の桿状核球、5.は核の重なりもあって分葉核球と思われます。

B-1.細胞径15μm大、クロマチン網工は粗大粗荒、細胞質は橙黄色のことから骨髄球と思われます。
2.細胞径22μm大、クロマチン網工は顆粒状、細胞質は好塩基性でゴルジ野の発達がみられることから低顆粒気味の前骨髄球と思われます。
3.細胞径14μm大、核形不整がみられ、クロマチン網工は繊細、細胞質は灰青色で微細顆粒を有することから単球と思われます。

C-1.細胞径15μm大、核形とクロマチン網の粗さから桿状核球を思わせますが、クロマチン網工はやや繊細で、灰青色の細胞質には多くの空胞を有することから単球と思われます。2.核は重なり、クロマチン網工は粗大結大結節状から分葉核球です。3.細胞径14μm大、核はバナナ状でクロマチン網工は粗大粗荒(一部結節)、細胞質は橙紅色のことから大型の桿状核球と思われます。

D-1.細胞径11μm大、細胞質の色調は紫紅色で、円形核のクロマチン網工は粗大粗荒(凝縮)のことから多染性赤芽球と思われます。2.細胞径15μm大、細胞質は青紫色で、円形核のクロマチン網工は粗荒(凝縮)のことから多染性赤芽球と思われ、少し大型のようです。
3.細胞径15μm大、細胞質は好塩基性で、円形核のクロマチン網工は粗顆粒状であることから好塩基球赤芽球と思われます。
2.と3.の違いは、クロマチン網工と細胞質の色調の違いにあるようです。
4.は1.と同様に多染性赤芽球と思われます。


問題 2

この症例の形態所見から考えられる疾患は何でしょうか。また、鑑別する疾患とそのポイントも考えてください。
【1歳代.男児】  肝脾腫大、リンパ節腫大、顔貌異常なし

WBC 4,200/μL、RBC 345万/μL、Hb 8.0g/dL、Ht 25.2%、PLT 5.3万/μL、BM-NCC 1.0万/μL

生後1歳未満、アトピー性皮膚炎のため近医を受診。肝脾腫を指摘され、原因不明のまま経過観察中でした。その8カ月後に肝脾腫が増大し、汎血球減少も増悪したため、当院に紹介されました。

【解説】

A.[BM-MG.400]骨髄は末梢血の混入も考えられ高度の低形成(1.0万/μL)で、数か所に大型細胞が散見されました。
B.[BM-MG.600]大型細胞は50μm大で、形状から網内系、マクロファージを思わせます。核は偏在傾向、豊富な細胞質は弱好塩基性で辺縁は不明瞭、まるで猫がひっかいた様な筋状を呈しています。
C.[BM-MG.1000]大型細胞はゴーシエ(Gaucher)細胞を思わせ、細胞質の状況からglucosyl ceramideの結晶の出現とみなしました。それらはPO染色に陰性(D)、PAS染色にびまん性陽性(E)、ACP染色にびまん性の強陽性を呈しました。


【臨床診断】

ゴーシエ細胞の優位から脂質蓄積症のリピドーシス、いわゆるゴーシエ病(glucosylceramide lipidosis) を疑いました。形態所見の情報から検査が進められ、画像診断の腹部エコーでは肝脾腫あり、腹部 MRIでは肝脾腫あり、鉄の沈着なし、血清ACP高値、アンギオテンシン転換酵素高値、 β-D-glucosidase.0(2.4~8.2nmol/mg/h)、アミノ酸分析・有機分析では異常なしでした。
本細胞のACP  染色は、強陽性所見で血清ACP活性の高値と一致していました。そして、β-D-glucosidase活性の欠  如や巨大肝脾腫を主徴とした脂質蓄積症のGaucher病と診断されました。
本型は、ライソソーム酵素  の一つであるグルコセレブロシダーゼ(別名βーグルコシダーゼ)の遺伝子異常に基づくグルコセレブ  ロシダーゼ活性の低下あるいは欠損のため、その基質であるグルコセレブロシド(糖脂質)がマク  ロファージに蓄積し、肝脾腫、骨痛や病的骨折、中枢神経障害を引き起こすとされます。
常染色体劣  性の遺伝形式をとり、日本における有病率は33万人に1人とされ、神経型が多いようです。

   (概要・定義引用:日本先天代謝異常学会HP.2015)

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