第78回 「マンスリー形態マガジン」 2017年10月号

『 秘境温泉“銀婚湯” 』

  ここは北海道二海群八雲町、山あいの“上の湯温泉郷” にあるひなびた温泉宿「銀婚湯」です。
この7月、札幌学会を利用し夕張市の旧友と初めて訪れました。珍名「銀婚湯」のいわれは、大正天皇の銀婚式の日に湯を得たことから名づけられたそうです。道内では数少ない純和風の温泉旅館で客室や湯殿はもちろんのこと、館内随所から木のぬくもりを感じることができます。道ばた沿いの門をくぐると、自然を生かした1万坪の大庭園が温かく迎えてくれます。館内の湯船のほか露天風呂も完備されていて、風呂上がりには大庭園が癒し憩いの散歩道に様変わりです。「銀婚湯」という宿名らしく結婚25年目の銀婚式をお祝いするお客も多いようで、クチコミも上々です。
  そもそも、上の湯温泉は落部川の中流中州より湧出する名湯として、数百年昔から、先住民族のアイヌの人々が狩猟の折々汗を流し、時には療養のため常浴したと言われます。
江戸時代の後期(1846)には松浦武四郎が浴し全国に紹介された記録があるそうです。さらに慶応4年(1868)の戊辰戦争の折には、榎本武揚率いる幕軍の負傷者を湯治させたことで有名になったようです。
当時は湧出量はさほど多くなく、大正14年5月10日、七飯峠下の川口福太郎によって中州を開掘し、熱湯の大量湧出に成功し温泉宿建設に夢を託したことになります。
時あたかも大正天皇銀婚の佳日にあり、福太郎の妻トネの発案で、自分たちの銀婚式を重ね合わせ、「銀婚湯」と命名されました。その後、トネの努力により今日の銀婚湯の礎が築かれたようです。
  温泉宿を取り込む大庭園の多くはカエデやモミジであり、それを支えるようにして大きな石庭が一段と優雅さを引き立てます。紅葉は10月の中旬だそうで、是非訪れてみては如何でしょうか。

(資料:上の湯温泉 銀婚湯マップ)

草々

形態マガジン号キャプテン 阿南 建一 



著作権について

今回のねらい

 今回は、骨髄の細胞同定と形態診断に挑みます。
細胞同定は骨髄でよく遭遇する細胞を提示しました。なかには鑑別を要する細胞もありますのでそのポイントを捉え同定してみて下さい。
  症例編は、僅かな臨床と検査所見から、末梢血のMG染色と骨髄のMG染色、ACP染色ならびに診断に必要な検査を模索し形態診断を行なって下さい。また、本型と類似する疾患を考え、その鑑別ポイントについても述べて下さい。

問題

骨髄の細胞同定を行なって下さい。

1-1<問題1-A>

  • BM-MG×1000

1-2<問題1-B>

  • BM-MG×1000

1-3<問題1-C>

  • BM-MG×1000

1-4<問題1-D>

  • BM-MG×1000

末梢血・骨髄像より考えられる疾患と鑑別疾患のポイントは何ですか。

2-1<設問1>

【所見】
【50-55歳.女性】主訴:貧血、腰痛
WBC14,500/μL、RBC286万/μL、Hb10.2g/dL、Ht25.6%、PLT4.4万/μL、NCC16.2万/μL、血液像:核偏在のリンパ球 (二核含む) 35%→PO/EST染色陰性

  • PB-MG×1000

  • BM-MG×400

  • BM-MG×1000

  • BM-ACP×1000

解答・解説

問題 1

(正解と解説)
   骨髄の細胞同定です。類似細胞については鑑別ポイントを明確にして同定を試みて下さい。

【正答】

(Case A) 1.多染性赤芽球、2.好塩基球
(Case B) 1.後骨髄球、2.前骨髄球、3.前骨髄球、4.リンパ球、5.桿状核球、6.多染性赤芽球
(Case C) 1.単芽球、2.多染性赤芽球
(Case D) 1.多染性赤芽球、2.組織球、3.桿状核球

【解説】

(BM-MG ×1000)
A
B
C
D
(Case A)
1.形態的に赤芽球を疑い、細胞径13μm大で紡錘糸がみられることで分裂後がうかがえます。細胞質の色調は好塩基性から多染性に向かっており、核のクロマチンは結節状のことより多染性赤芽球に同定しました。
2.核の分葉とクロマチン網工の不鮮明、紫褐色の粗大顆粒は核の上にも分散しているようで成熟型の好塩基球に同定しました。

(Case B)
1.顆粒球系の分化過程を考えると、2.→3.→1.→5.の順に成熟しているようでその順に説明します。
2.細胞径23μm大で最も大きく核偏在、クロマチン網工は粗網状、細胞質は好塩基性で僅かにアズール顆粒を認める前骨髄球と思われます。3.クロマチン網工は2.より少し成熟がうかがえますが、核偏在に好塩基性の細胞質を有しておりアズール顆粒は減少していますが前骨髄球に同定しました。1.核に陥没がみられ、短径が長径の1/3以上の長さより後骨髄球に同定しました。5.核の湾曲が著しく、核の短径が長径の1/3未満のことより桿状核球に同定しました。いずれも顆粒は低顆粒のようです。6.赤芽球にしてはかなりの小型ですが、細胞質は未だ多染性の色調を保持(一部不染部あり)していることより多染性赤芽球に同定しました。4. はリンパ球です。

(Case C)
1.細胞径20μmの大型細胞で、豊富な好塩基性の細胞質を有し微細なアズール顆粒がみられます。
核形は円形というより12時方向にやや不規則性がうかがえ、クロマチンは繊細網状で幼若な単球を思わせます。
大型で豊富な細胞質より単芽球を思わせますが、軽度の核形不整や微細なアズール顆粒を有していることより前単球に同定しました。通常、単球系のアズール顆粒は前単球からみられると言われます。 2. は多染性赤芽球でよろしいかと思われます。

(Case D)
1.は多染性赤芽球、2.は単球に類似しますが、それに比べると40μmと大型、淡青色の好塩基性の細胞質は豊富で不規則性、著明な空胞と僅かなアズール顆粒を認めることより組織球に同定しました。
3. 核は棒状でクロマチン結節が僅かにみられ桿状核球と思われ、それは低顆粒気味のようです。
背景には多染性赤血球(網赤血球)が散見されます。



問題 2

   50歳代の女性例。近医にて貧血、腰痛を指摘され、当院にて貧血と血小板数減少、白血球数増加を認めたため入院となりました。

【解説】

(PB-MG ×1000)

(BM-MG ×400)

(BM-MG ×1000)

(BM-ACP ×1000)

【末梢血液像所見】(A図)
   白血球増加(14,500/μL)の血液像でリンパ球様細胞は75%(10,875/μL)と増加していました。そのリンパ球様細胞を細かくチエックすると核偏在や二核のものが35%(5,075/μL)みられ、それらはPO染色やEST染色に陰性でした。

【骨髄像所見】(B図)(C図)
   正形成の骨髄(16.2万/μL)ではリンパ球様細胞が84.0%と増加していました。それらは小型で末梢血でみられたような形態に加え、核異型性の強い細胞が多くみられました。形態所見から形質細胞の腫瘍を疑いました。

【特殊染色】(D図)
   形質細胞様細胞についてはPO染色、EST染色に陰性で、PAS染色では一部が陽性でした。
   また、酸性ホスファターゼ(ACP)染色が多核細胞のゴルジ野あたりに強陽性を呈していました(矢印)。

【生化学所見】
    血清LD.690U/L、血清Ca.15.6mg/dL、M蛋白(+) 

【表面形質】
    CD38、cIg(+)

【臨床診断】
臨床的に腰痛があり、貧血、血小板減少、白血球数増加がみられたこと、末梢血中の形質細胞が白血球分画中比率で35%以上、絶対数で5,075/μLを呈したことより形質細胞の腫瘍性として形質細胞性白血病(PCL)を疑いました。PCLの形態診断基準(末梢血の形質細胞が20%以上、絶対数が2,000/μL以上)をクリアしており、また腫瘍性細胞の増加による血清LDの高値、骨破壊による血清Caの高値またM蛋白の証明や表面形質の所見からPCLを診断づけるものとなりました。本型は多発性骨髄腫に類似しますが、それに比べ骨病変は少なく、形質細胞の形態は小型で核形不整が顕著であることが特徴のようです。また予後は不良で、急激な経過をとるものが多いとも言われます。



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